#ギーンおのみは視察する レポVol.2 ―六甲ウィメンズハウスハウス(兵庫県神戸市)
視察の実施概要
実施日:2024年8月6日(火) AM
視察先:認定NPO法人女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ(於:六甲ウィメンズハウス)
視察目的:「六甲ウィメンズハウス」の見学、及び「居住の権利」保障を軸に、困難を抱える女性たちを支援するウィメンズネット・こうべの取組みについて学ぶ
今年6月にオープンした「六甲ウィメンズハウス」を訪問し、認定NPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」代表理事の正井禮子さんのお話を伺い、お部屋や各種施設の見学をさせていただきました!!
正井さんは、30年以上にわたって、DV、性暴力、貧困など、様々な困難を抱える女性たちと向き合い、ジェンダー平等の実現を訴えてこられた、女性支援活動の草分け的存在(神戸新聞朝刊、2024.5.3)。「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(通称:困難女性支援法、女性支援新法など)が施行された年に、ついにお会いすることができて感無量でした…!
正井さんのお話には、長年現場で活動されてきたからこそ紡がれる言葉と思いがギュギュっと凝縮されており、正直もっと聞いていたかったです。もちろん、そのベースにあるのは、これまで彼女とつながってきた数多の女性たちの経験であり、DVは重大な人権侵害であると知られるようになる以前から今に至るまで、女性支援の活動を続けてこられたの本当にてぇてぇし、ほんとパイオニアのおねいさまたちには頭があがらないです。お話を伺いながら、改めて身が引き締まる思いでした。
・・・というわけで、ドチャクソ濃厚な視察だったのでうまく纏められないのですが、以下簡単な視察レポです。
ウィメンズハウスについて
まず、六甲ウィメンズハウスについて。
概要はHPに掲載されているので、そちらも見てね。
六甲ウィメンズハウスは、所持金が少ない、保証人がいない等の様々な理由により住まいを確保しにくい女性や、シングルマザーとその子どものためのシェアハウスです。単に住宅を提供するたけではなく、入居者が孤立せずに安心して暮らし、地域で自立していけるように、心のケア、食料支援、生活支援、就労支援など様々なサポートがあります。
シェアハウスの居室は40室で、広さ(19.5~57㎡)と設備別に8タイプあります。家具はイケアの家具が備え付け。共益費や光熱水費等はあるけど、Wifiは無料。敷金・礼金・仲介手数料は不要で、家賃は部屋タイプによって28,000円~52,000円。
ちなみに、視察に伺った時点では、不動産会社への広報はしておらず、入居相談はこども家庭センターや配暴センター経由のみで受け付けているとのことで、8世帯ほどが入居していました。
入居対象者は、次の通り:
自立を希望する、小学生までの子どもがいるシングルマザー
就労・自立を目指す18~20歳くらいまでの若年女性
学ぶ意欲のある、経済的困難を抱えた女性の学生や留学生
資格取得意欲・就労意欲があり、自立を目指す単身女性
ポイントは、女性と子ども限定であることと、自立への意欲があることです。
あくまで民間で運営されるシェアハウスなので、入居希望者との事前の面談等を通して、柔軟に対応してもらえそうです。
お部屋の様子はこんな感じ・・・
2Fのパブリックエリアには、広々としたキッズスペースやお洒落なコミュニティカフェ、シェアオフィスに学習室まで!こちらは、地域の人たちなど入居者以外の利用も認めているそうです。地域に開かれたシェアハウス…素敵…
正井さんのお話からメモ
さて、こんなおしゃんですてきなシェアハウスをなぜつくろうと思ったのか?正井さんのお話から、特に大事なポイントを抜粋しました。
「ここにしか住めない」ではなく、「ここに住みたい」と思える住まいづくりを
きっかけは、2010年にデンマークの女性と子どものための福祉住居を視察したこと。広くて明るいお部屋、素敵な家具、子どもたちのためのリビングルーム。移民の入居者が母国の調味料等を格納できるようにたくさんのロッカーも。
女性たちが「ここにしか住めない」ではなく、「ここに住みたい」と思える家をつくりたい!という思いの原点はここにあったそうです。
ただ、正井さんはそのずっと以前から、女性たちにとっての“帰る場所”、安心して暮らせる住まいの重要性に関心を持ってこられたようです。1994年には、神戸市内に一軒家を借りて「女たちの家」を開設したり、1997年にはアメリカのウィメンズハウスを視察したり…
中でも阪神淡路大震災後のエピソードが印象的でした。
ウィメンズネット・こうべは、震災後すぐに女性たちのための電話相談を開設し、2001年にDV防止法ができるまで、毎年1,000件近くの相談を受けてきたそうです(約6割が暴力に関する相談…)。そんな中、1995年の女性支援セミナーで、震災後に仮設住宅に避難したシングルマザーの女性から、親切な高齢男性から生活支援の対価として性暴力被害に遭った経験が語られました。すぐに警察に相談したの?との問いに対して、『そこでしか生きていけないときに、誰にそれを語れというんですか?』と涙ぐんで答えられたと・・・
あちこちに「相談してください」というワードが躍っているけど、安心して暮らせる住まいの提供とセットにしないと、相談なんてできるわけない!という言葉にハッとさせられました。
すべての人に、安心・安全が保障され、尊厳をもって暮らせる住まいをもつ権利―ハウジングライツ―がある!
実際、DVや性暴力等の女性に対する暴力(Violence against women)と住まいの話は、切り離せない問題だと思います。
内閣府の調査(2024)によると、結婚を経験した女性の場合、約3.6人に1人がDV被害に遭っており、さらにこの内6.4人に1人は殺されるような思いを経験していることが分かっています。しかし、暴力の被害に遭った女性たちの中で、実際に家を出た(相手と別れた)のはたった2割。家を出たくても出られない理由として大きいのは「経済的な不安」で、この点は男女間で回答傾向に最も顕著な差が見られます。
転居費用は少なく見積もっても30万円くらいはかかるだろうし、加害者の夫やパートナーにも知られている実家や知人宅には行けません。DV被害者が暴力から逃れるためには、所持金ゼロでも飛び込むことができて、安心して暮らせる住まいの確保が不可欠なのです。
(※ちなみに、上記の内閣府「男女間における暴力に関する調査」の対象は18~59歳であり、18歳以下の女の子や60代以上の高齢女性は調査対象外となっている点に要注意!)
このように、わたしたちは“暴力を許容する社会”に生きているわけですが、正井さんは、世界人権宣言第25条、そして社会権規約第11条を挙げて『DV被害に遭った人であっても、すべての人に尊厳を持って暮らす権利がある!』と言います。
ところで、イギリス(イングランドのみ)では、1996年住宅法におけるホームレスの定義に、「家があっても家庭内暴力の危機にある人々」が規定されていたそうです。例え屋根のある家に住んでいたとしても、安心安全な環境が担保されていなければ“ホームレス”として、地方自治体は住居を提供することが義務付けられているとのこと…!
翻って日本では、今年4月に困難女性支援法が施行されました。同法第1条では、以下のように規定しています。
新法のもとで、この国でも、「すべての人に、安心・安全が保障され、尊厳をもって暮らせる住まいをもつ権利―ハウジングライツ―がある!」という考えが当たり前のものとして定着し、地方自治体の責務を含め、制度化が進展するように行動していきたいです。
世田谷区への提案として参考になりそうなこと
六甲ウィメンズハウスの建物は、元々は生活協同組合コープこうべの女子寮だったそうで、女子寮としての役目を終え空き家となっていた2~4階を提供してもらい、狭かった部屋を統合改修して今の形にしたとのこと。コープこうべとは、食料支援や就労支援でも協力連携しているそうで、こうした生協と連携した居住・自立支援の在り方は、一つのモデルになるのではないかと思いました。
実際に、神奈川の方でも生活クラブ生協と民間団体の共同事業体による、困難を抱える女性や若者のための居住支援事業が展開されており、こちらも今後視察に行きたいと思っています。世田谷は、生活クラブ発祥の地であり、生協運動が盛んな地域の一つです。ぜひ、世田谷区でも、民間主導のイノベーティブな居住支援がどんどん進むよう、そして行政がそれにブレーキをかけるのではなく、後押しするような動きが生まれるように、議会からも積極的に提案していきたいです。
また、六甲ウィメンズハウスの運営は現状、民間財団の資金拠出(2年間で1,500万円)によって人件費を賄っており、公的資金は一切入っていないそうです。困難女性支援法はできたけど、兵庫県も神戸市も令和6年度予算に関連予算を計上しなかったの悲しい……かかる現状に対して、ウィメンズネット・こうべは今年8月に兵庫県知事宛ての要望書を提出しており、正井さんは『この2年間でできるだけ、行政や民間との連携をつくっていきたい』と力を込めて仰っていました。
長らく日本の公的な女性支援は、1956年成立の売春防止法を根拠として行われてきました。困難女性支援法はこれに代わり、公的な女性支援の目的を売春防止から「女性福祉の増進」へと抜本的に転換する大きな意義をもつ法律です。しかし、法律自体は4月に施行されたにもかかわらず、全国的にも自治体の動きの鈍さが際立ち、「法律はできても女性たちの力にならない」状況からどう脱却するか、まさに喫緊の課題です。
六甲ウィメンズハウスをはじめ、民間団体による活動はほとんどの場合、財政的な持続可能性の点で課題を抱えています。民間団体のボランタリーな活動に“ただ乗り”し、その結果貴重な社会資源を潰すようなことになれば、困難な状況に置かれた女性たちや子どもたちの権利侵害に直結しうることを、行政はもっと自覚すべきだと思います。
世田谷区は、困難な女性への支援に関する区独自の基本方針策定に向けて、現在検討を進めています。これまでも何度か議会質問に取り上げてきましたが、今回の視察で得た視点を活かして、“女性が一人で生きていける”ってどういうこと?そのためにはどんな制度が必要?などなどわたし自身も日々考え続けながら、引き続き議会で提案をしていきたいと思います。
おまけ:
正井さんが言うには、アメリカでもデンマークでも、「シェルターは社会(コミュニティ)が守る」っていう意識が浸透しているんだって。だから、シェルターの位置も公表できるし、むしろ「○○ウィメンズハウスへようこそ!」とか表立ってアピれちゃうらしい。日本では、基本的に被害者が逃げる前提の制度設計になっているし、安全確保第一でシェルターの位置も原則非公開だよね。あまりの差にとても同じ世界線とは思えない…
日本も、女性や子どもが“常に被害者で、弱くて、保護すべき存在”ではなくて、自由にのびのびと生きられる社会になってほしいよね。