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環境を変えることがポテンシャルを引き出す

成長し続けるためには何が必要か。

この問いは、向上心の強いひとが頭を悩ませることかもしれません。しかし、この問い実は、わたしの研究領域である「人工生命」における重要なテーマの一つです。わたし自身も、このテーマに対し、コンピュータ・シミュレーションを利用して取り組んでいます。

この研究テーマの面白いところは、コンピュータを使ったシミュレーション実験であるにも関わらず、その結果から得られる知見がわたしたち人間が成長に対するヒントを提供してくれることです。

環境を変えることの重要性

そのひとつが、環境を変えることの重要性です。同じ環境で学習を続けていても、なかなか新たな才能を開花させることは難しいかもしれません。けれど、環境を変えてみることで、これまで見えなかった才能が発揮されることがあります。

たとえば、以下に示す実験では、ソフトロボットという柔らかい素材で作られたロボットを使用しています。ロボットにはニューラルネットワークが組み込まれており、与えられた環境で前に進む動きを学習します。ここで示す結果は、同じニューラルネットワークを持つ二つのロボットに対して、ひとつは同じ環境のみで学習させたもの、もうひとつは様々な環境で学習させたものを比較したものです。

一つの環境で学習させた結果
複数の異なる環境で学習させた結果

一つの環境で学習させたロボットと、複数の環境で学習させたロボット。両方とも同じニューラルネットワークを持っていますので、与えられた環境であれば、画面の右端まで進めるように学習するはずです。しかし、一つの環境で固定して学習させたロボットはそのポテンシャルを発揮することができませんでした。

一方で、複数の環境でクロストレーニングさせたロボットは、そのポテンシャルを発揮し、より遠くまで進めるようになりました。

このように、環境を変えるだけで、これまで発揮できなかったポテンシャルが引き出されることがあります。

この結果はロボットのシミュレーション結果でありながら、行き詰まったり、成長が止まってしまった状態から抜け出すためのヒントを私たちに提供してくれます。思い切って環境を変えと、新たな道が開けることがありますよ!と語りかけているようです。

より多様な環境で学習するために

ちなみに、ロボットの形状によっても、どの環境に適応できるかが異なります。例えば、上にジャンプするのが得意な形状のロボットは、高低差のある環境に適しています。同様に、長距離をジャンプできる形状のロボットは、大きな穴が開いた環境でも適応できます。また、ジャンプは得意ではないけれど、ひたすら前に早く進むロボットは、長距離の環境でも適応できるでしょう。

ですが、これは同時に、クリアできる環境は、ロボットの形によって適応できる環境の種類が制限されてしまうということでもあります。時間が経つごとに、試す環境が似てくるため、多様性が失われてしまいます。その結果、進化もとまってしまうのです。

そこで、ひとつの解決策として考えられるのが、多様な形のロボットを使うことです。それぞれのロボットが適応できるさまざまな環境を共有し、それぞれが多様な環境で学習を行うことで、ロボットの性能を最大限に引き出し、より多様な環境に適応できるようになります。

人間に置き換えると、自分だけで新しい環境を探すのには限界があるかもしれませんが、友人や同僚に新たな環境を紹介してもらうことで、経験の幅が増えるようなものです。

人工生命という分野で進化し続けるメカニズムを探求するこの研究は、コンピュータ上の実験であるとはいえ、その結果はわたしたち人間に「ああ、なるほど」と感じさせる納得感や新たな視点を提供してくれます。こうした発見に出会う喜びが、わたしが研究を続ける大きな動力になっています。

それでは、また!ciao。

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