キャズム理論:研究者はイノベーター?
こんにちは。岡瑞起です。
8月もあっという間に終わり、9月に突入です。学生の方は、秋学期が始まっている方も多いのではないでしょうか。大学も対面のところが増えてきましたね。筑波大学でも秋学期から多くの授業が対面授業に戻る予定です。およそ2年振りの対面授業になるので、なんだか授業を提供する側も緊張します。一説によると、オンデマンド授業に慣れた学生にとっては、早送りも一時停止もできない対面の授業は苦痛に感じるとのこと。飽きさせない授業をより一層求められそうな予感です。
さて、今日は最近おすすめされた本『キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論』を読んで思ったことについて書きたいと思います。
この本は、経営コンサルタントのジェフリー・ムーア氏によって書かれた、ハイテクテクノロジーを使ったサービスや製品がマーケットに普及するための方法について書かれた本です。
その中で特に重要なのが「初期市場」と「メインストリーム市場」の間に存在する「キャズム(chasm)」と呼ばれる大きな溝を超えることが重要であると述べられています。
本の中では、消費者をその特性ごとに次の5つのタイプに分類しています。
1. イノベーター(Innovators、革新者)
2. アーリーアダプター(Early Adaptors、先駆者)
3. アーリーマジョリティー(Early Majority、実利主義者)
4. レイト・マジョリティー(Late Majority、追随者)
5. ラガード(Laggards、無関心層)
イノベーターは、消費者グループでも最もはやく新しいハイテク製品を試す人たちです。分かりやすく例えると、近所でまだ誰もテスラを持っていないときに買うような人たちでもあります。
アーリーアダプターは、イノベーターの次に新しいハイテク製品を使う人たちです。しかし、技術志向ではないという点において、イノベーターとは一線を画します。アーリーアダプターはビジョナリーの経営者といった人々が多いようです。
アーリーマジョリティーは、実用性を重んずる点でアーリアダプターとは一線を画します。最新の発明と言われるものの多くが一過性の流行で終わることを十分に認識していて、自分が製品を買う前に他社の動向を伺う人々です。電気自動車でいうと、電気自動車の効用が証明されて、電気自動車向けのサービスステーションが街中で見られるようになったら買う人達です。
レイトマジョリティーは、アーリーマジョリティーと似ている特性を持ちますが、ハイテク製品を自分で使うことに多少の抵抗を感じるという点で、アーリーマジョリーティーと異なります。そのため、業界標準となり、手厚いサポートを受けるために、実績のある大企業から製品を購入したがる傾向にあります。
ラガードは、新しいハイテク製品には見向きもしない人たちです。電気自動車をいつ買いますか?と問われたら「永久に買わない」と答える人たちでもあります。
「初期市場」はイノベーターとアーリーアダプターから構成されるのに対し、「メインストリーム市場」は、アーリーマジョリティーからラガードで構成されます。アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間には、ユーザー層に価値観の大きな違いがあり、この大きな溝を超えない限り、ハイテク製品やサービスが大きな市場を獲得することは無いということが、その理由と解決策と共に本の中で丁寧に説明されています。
新たなテクノロジーを市場に浸透させていくときには、5つのユーザ層を左から右へと順に進めていくことになります。最初はイノベーターに焦点を合わせて市場をつくり、次はアーリーアダプターの心を捉えて市場を拡大し、アーリーマジョリティー、レイトマジョリティーへと拡大していくという具合です。
ここで各層から次の層に進めていくときに、一つ前のユーザ層で捉えた顧客グループを先行事例として活用することが重要になります。アーリーアダプターを攻略するためには、イノベーターの利用事例を説得材料にするといった具合です。実際、イノベーターの利用事例はアーリーアダプターの心を捉えるための有効な手段となります。
しかし、アーリーアダプターからアーリーマジョリティに進むときは大きな壁にぶち当たります。アーリーアダプターとアーリーマジョリティのユーザ特性が全く異なるため、アーリーアダプターでの先行事例が、アーリーマジョリティーを説得するための材料にはならないのです。これがこの二つの顧客層の間にある「キャズム」を超えられない大きな理由になっていると本では述べられています。
この本を読みながら、自分はどこのユーザ層にいるのだろうと考える人も多いのではないでしょうか。私は完全に「イノベーター」層の人間だなと改めて自覚しました。新しいテクノロジーが出ると、いち早く試してみたくなりますし、研究世界にいて楽しいなと思える理由のひとつに、テクノロジーの最新情報がいち早く入ってくるからです。おそらく、他の研究者も(少なくともコンピュータサイエンスの業界にいる研究者は)、イノベーターに分類される人が多いのではないかと思います。
それと同時に、イノベーターに属する人にとって、メインストリーム市場に食い込むような製品やサービスの開発をすることの難しさも改めて感じます。その理由は本書の次のような記載からも明白です。
研究においても「新規性」に重点が置かれ、それが具体的にどのような役に立つかと問われたときに答えに窮するときがしばしばあるのも、研究者の「イノベーター」的な特性が強いせいかもしれません。しかし、こうしたイノベーターの特性があるからこそ、新しい技術や製品がテストされ、機能していることが証明されることで、アーリーアダプターの目に止まり、世の中に広まっていくきっかけとなるのということも事実です。
そういう意味で、イノベーターが注目している技術が、アーリーアダプターによって見いだされることがとても重要になります。本の中ではアーリーアダプターの新たなハイテク製品に示す反応を次のように述べています。
私も研究者として大学で研究をしながら、研究成果を世の中の課題を解決するために活用したいと常々思っています。そうした思いから、株式会社ブランクスペースという会社を立ち上げ、企業との共同開発を行っています。本の中でも述べられているように、研究から生まれたばかりの技術というのは、技術的には面白いけれど技術がどのように役に立つかはまだ未知数であることが多いのが現状です。そうした技術に関わらず、その技術を使って、会社が抱えている問題に適用してみようと思ってくださるアーリーアダプターでもありビジョナリーな方々との出会いがあって、開発に取り組むことができているわけです。
そうしたご縁に感謝しつつ、これからも研究成果の社会活用に向けて活動していきたいと思っています。ビジョナリーのみなさま、ぜひご興味ありましたらお声がけいただければ幸いです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。