機械の創造性に重要なことは人間の創造性にとっても重要?
みなさん、こんにちは。ALIFE研究者の岡瑞起です。朝晩と急に冷え込むようになってきましたね。私はあまりの寒さに早くもダウンコートを引っ張り出してきました。
さて、私の専門とするALIFEという研究分野は、人工「Artificial」と生命「Life」を合わせた言葉です。Artificial Lifeを略して「AL」や「ALIFE」と呼んだりします。ALIFEを日本語訳すると「人工生命」となり、この言葉からフランケンシュタインのような人造人間をイメージする人も多いかもしれません。
ですが、研究分野としてのALIFEは、フランケンシュタインではなく人間が作り出している科学技術の発展、あるいは46億年もの間ずっと進化し続けている自然や生物のような「終わりなき進化(オープンエンドな進化)」を人工的に作り出すことを目指している分野です。つまり、自ら進化し続ける機械を作り出すことを目指しているのがALIFEという研究分野なのです。それは「新しいものを生み出し続ける」あるいは「創造的になる仕組み」を機械で作り出そうとする試みということもできます。どうしたら創造性を機械に持たせることができるのかを探求しているのです。
そして、研究から明らかになってきた機械を創造的にする仕組みは、わたしたち一人ひとりの可能性を見つけ創造性を発揮するためにも役立ちます。機械の創造性に重要なことは人間の創造性にとってもヒントになることがたくさんあるのです。私がALIFEの研究が面白いと思っている理由も、実験を通して創造的になるためのヒントを得られるからです。
それでは具体的に何が分かってきたのでしょうか?わたしたち一人ひとりが創造性を発揮するためにはどうしたらいいのでしょうか?
その鍵を握るのが創発(emergence)という概念です。創発とはプログラムされていない振る舞いや、単純なルールから生み出される予測できない複雑な現象を指します。たとえば、鳥や魚の群れといった集団行動や車の渋滞などは創発現象のひとつです。
▼ムクドリの群れがつくる創発現象
プログラムされていない現象や予測できない複雑な現象を次々と作り出すことができれば(これを多段階創発といいます)、きっとそれは終わりなき進化につながります。そして、ALIFEの研究を通してみつかってきた創発を生み出すための仕組み一つ一つが、創造性を発揮するための方法論となるのです。
具体的には、新しいことにチャレンジする(新規性探索アルゴリズム)、競争を避ける(品質多様性アルゴリズム)、環境を変える(環境と身体の共進化アルゴリズム)といったことです。これらは、生物の進化を模倣した進化アルゴリズムと呼ばれるコンピュータアルゴリズムを通じたALIFEの研究から得られた創造性を発揮するための方法です。これら一つひとつに関する詳しい説明は、VOOXという音声メディアでも詳しく解説していますので、よかったら聞いてみてください。
進化を使う以外にも身体性や相互作用を使って創発を起こす方法があります。
たとえば、身体性を使った創発にはロボット工学者のロルフ・ファイファーによって提案されたスイスロボットです。このロボットはブロックがばらまかれた場所に放つと、ブロックを集め始め、まるで掃除をしているような動きを示します。このロボットはブロックを認識して集めるといった行動をするようにはプログラムされておらず、ロボットに取り付けられたセンサーから入ってくる情報に従って左右に動いているだけです。ロボットに付けられている2つの赤外線センサーの間隔をブロックの大きさに合わせてうまく調整してあげると、左右に動くという動作を繰り返ししているだけでも、掃除をするような動きが創発してくるのです。身体の特徴を生かしつつ、環境をうまくデザインしたことで創発につながった例です。
▼「ブロックを集める」スイスロボット
身体性が異なると作り出される動きも違ってきます。スイスロボットは実際のロボットを使った研究ですが、コンピュータシミュレーションを使うことで、多様な形のロボットの動きを探索することができます。こうした研究の結果分かったことが、難しい課題を解くために身体の多様性がとても重要である、ということです。多様な身体性をもたせて課題の解決にトライすることは、創造性を発揮するためにとても有効な方法なのです。
相互作用を使った創発は、前述した鳥の群れなどがわかりやすい例です。そして、もちろんわたしたち人間同士のやりとり(相互作用)が作り出す創発現象もあります。そのひとつがソーシャルネットワークが作る創発現象です。たとえば、情報がまたたく間にシェアされコミュニティ形成に至ったり、新しいスターやインフルエンサーが生まれるといった創発現象がソーシャルネットワーク上では常に起こっています。新しいモノが常に生み出され、進化し続けるソーシャルネットワークは、オープンエンドな進化を続ける人工システムと捉えることができます。
ソーシャルネットワークの分析からも、わたしたち一人ひとりが創造的になるためのヒントを得ることができます。たとえば、新しいことは偶然に起きているわけではなく相関して起きるということです。「何か新しいことをしなきゃ!」と思ったとき、ランダムにとにかく手当たりしだい新しいことをしてみよう、と思ってしまいがちです。でもそうではなく、既に実現したことのあるアイディアやこれまでの経験を振り返ってみて、その一歩先にある、新しい行動をひとつ起こすことが重要だということです。そうすると、さらなる新しいことへとつながり、次々と新しいアイディアが見つかっていきます。
また、自分とは異なるアイディアや経験を持つ他人とつながることも、新しいことを生み出す大切な要素です。わたしたちは自分と似た考え、見た目、バックグランドを持つ人と一緒にいることを心地よい、と感じてしまいがちです。ですので、ついついアイディアや経験も似たようなことが多く、人間関係も被りがちです。ですが、心理学者のトーニャ・メロンもTEDトークで語っているように「新しいチャンスを掴む鍵はまだ会ったことのない人にある」のです。
▼ トーナ・メロンによるTEDトーク
新しいことは自分の周りにある相関する空間を通して探すことができます。探索空間を自分のちからだけでなく、他人のちからも借りて広げるためには、自分の好みにあらがって、新しい人間関係を積極的にもとめて、多様な経験や価値観を持つ人とつながることが重要となります。
私の研究グループでは、繋がり方の違いがソーシャルネットワークの創発現象にどのような影響を及ぼすのかについて研究を進めています。創造性を生み出す集団とそうでない集団では、一人ひとりの相互作用がどのようにどのくらい異なるのか。こうしたことが研究を通して明らかになっていくことで、わたしたち一人ひとりの創造性につながるヒントが更に明らかになってくると思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、また!a bientôt.
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