柳広司著「アンブレイカブル」読了。治安維持法の下、拷問で獄中死した人達を題材にした小説。憲兵や特高が市民を監視して取り締まり、拷問と言う暴力で支配していたあの時代と、テレビと新聞が拷問の代わりに記事や言葉で世論操作する現代も基本的な支配の構図は変わっていないなぁと言う感想。
治安維持法の下、拷問で獄中死したプロレタリア文学を多く書いた小説家小林多喜二、川柳作家の鶴彬(喜多一二)、中央公論社や改造社の若き編集者たち、そして哲学者の三木清を題材にしたミステリー小説。
柳さんのスパイミステリー小説「ジョーカーゲーム」を読んで以来、ずっとファンである。今回の作品の登場人物は、どの人も獄中死すると知っていたが、その過程にうまくミステリーを取り入れているので、最後までワクワクしながら一気に読んだ。さすがスパイ小説の大家である。
ただ柳さんの凄さはそれだけではない。戦前戦中の全体主義、軍国主義の時代を表現しながら、実は現代もあの時代とそれほど変わっていないと思わせる表現のうまさ。憲兵や特高が市民を監視して取り締まり、拷問と言う暴力で支配していたあの時代と、テレビや新聞が言葉で政治家や市民を監視して取り締まり世論操作し、暴力的な言葉でバッシングする現代。拷問が記事や言葉に変わっただけで、現代も基本的な支配の構図は変わっていないなぁと思った。