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「いっぺん死んでみた。」【地獄の45日編】

「役に立たないプライドはゴミ箱に捨てろ」

2024年4月13日。私が産声を世間に披露した日から22年と2日後。私なんかの誕生日を祝いに来た変人たちの前でクラファンをすることを発表した。緊張しすぎて「メカクシ完了___ 」なんて格好つけて言った私を呪い殺してやりたい。
ファンは推しに似るとはよく言ったもので、変人たちは案外推しから出た話を即座に受け入れていた。いや、話が長すぎてもはや聞いてなかったかもしれない。
そうして私の重たい気持ちを他所に、呆気なく発表は終わってしまった。



3日後、私は地獄に突き落とされた。
毎日告知や配信に追われ、プライベートを犠牲にした。だが、それを苦だとは思わなかった。人からお金を頂くというのはその人が生きた時間の少しを頂くのだ。これは大層なことである。時はお金で買えない、しかしそれを頂くというからにはこちらも身を犠牲にするのは自然のことであり義務である。
それよりお金が集まらない、つまりそれほどの価値がない、ということが目視でわかる事の方が辛かった。自分でも価値がないことくらい分かっていたはずなのに、いざ目の前に突き付けられると心が抉られて死にたくなった。どれだけ140字の垣根を越えて発信しても、そもそも目にも止まらないのだ。それに仮に目に入ったとしても「麻倉瑞季」に自分が汗水流して得たお金を払おうと思う人間がどこに居ようか。

元々自律神経失調症と双極性障害を患っていた私だが、そこに更に過食非嘔吐が追加されてしまった。どんどん醜くなっていく身体。醜い人に誰が価値を見出すことが出来ようか。分かっているのに。
止まらなかった、支援額は上がらないのに。
こうして私の体積は過去最高値を更新した。


クラファン終了残り10日にも関わらず、支援額は目標より130万も下回っていた。なんとも惨めな状態である。そして、絶望である。ここからどう頑張っても目標を達成する未来が見えなかった。何をしても誰にも届いていないのではないかという心持ちになり、視界が真っ暗になった。もうこれ以上プライドが傷つきたくなかった。
私は失敗作の烙印を押された、気がした。

そんな私を可哀想だと思ったのだろうか、配信中にいきなり諭吉が15人増えたのだ。私の通帳には3人までしかいた事がなかったのに、急に15人だ。私は、諭吉を譲ってくれた顔も知らない誰かにこの先もずっと感謝をし続ける。
それを皮切りに次々と配信中に支援してくれる方が現れ始めた。完全にツムツムのフィーバータイムである。プレイしたことは無いが。


そうしてお祭り騒ぎが続き、遂に1日前に目標額を達成したのであった。というか達成していた。
というのもその日、私は友人である崎山蒼志のライブを観に行っていた。彼の世界観に侵入させて頂いている間、クラファンの事など思い出すことが出来ようか? 無論、否である。彼の世界観を私が楽しんでいる間に、全て事は済んでいたのである。
私の情緒は大暴れした。なんということだ!見届けたかった!という気持ちと、蒼志くんのライブ最高だった!という気持ちが激しく格闘してゲロが出そうだった。失礼なやつである。こういう時はサンバステップぐらい踏むべきものだ。まあ崎山蒼志の世界観だとゲロぐらい吐きそうなので解釈は一致しているのだが。


とはいえ、私は無事目標を達成することが出来たのである。

荒れに荒れた天気の中必死に走り抜けた先で、ちゃんと暖かい太陽が私を待っていてくれた。
45日の長く深い地獄からみんなの手を伝ってボロボロながらもようやく登りきった私は、未来の私にも誇れる素敵な人間になれた気がした。

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