稽古場
打ちっ放しのコンクリートでできた吹き抜けに、実希子が手を2回叩く音が響いた。
「はい!いったんここで切ろっか。・・・みずき、今のどうだった?」
畳とビールケースで作った簡易セットの上にいた、細身の男性とがっしりした男性が、ふたり揃って視線をこちらに向ける。
「んー・・・なんか全体の雰囲気は良かった気がしてて。久しぶりにばったり会っちゃった兄と弟が、なんとなく気まずいんだけど沈黙の方が気まずいからなんか会話しないと、みたいな感じが出てて」
「ふむふむ」
隣で栗色のくるくるしたショートヘアを揺らしながら、隣で実希子が頷く。私もそれほど身長は高くないが、実希子は私よりもさらに小柄だ。
「ただ、なんて言うのかな。終わり方?・・・今って会話がぱたっと終了してたと思うんだけど、そうじゃなくて、会話しないとって思って始めたものの別にふたりとも積極的に話したかったわけじゃないじゃん? だからお互い返事も億劫になって、だんだんテンポが落ちていって自然消滅・・・みたいにになるともう少し自然な沈黙になるかなー、と思った」
「いいね、それやってみよう。すぐ行ける?・・・OK。よーい、はい!」
実希子が両手を叩くと、ジャージ姿の男性ふたりが動き始める。
『ただいま・・・帰ってたのか』『うん・・・おかえり』
何もない空間は途端にリビングの扉になり、並べられたビールケースはソファになる。
『暑いな』『・・・うん』『・・・扇風機、つけていい?』『・・・うん』『・・・・・・』
「オッケー!確かにこっちの方が良いね」
再び両手を2回叩きながら、実希子が待ちきれずに言った。
「どう?ふたりとも。今、何となく掴めたよね?」
黙ったまま何度も頷く男性ふたり。
「だよねー。今やりながら、舞台にいるふたりからも、客席側でみてる側からも、なんか納得した空気出たもん。やっぱ演劇って相互対話なんだなぁ」
私は晴れ晴れと言う実希子の横顔をまじまじと見ていた。