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銭湯とわたし。

東京銭湯 TOKYO SENTO でライター活動をしていることもあってか、最近は「銭湯の人」と思われているな…と感じるこの頃。

そもそも、いつから銭湯が好きなのか?

今回は、私にとっての銭湯の話を書いてみます。


大田区生まれ黒湯育ち。

こんなこと言うと怒られそうだけど、私にとって銭湯は特に思い入れがあるものでもありませんでした。あたりまえのように近所にあって、気分転換したいときに行く、って感じ。

実家は商店街のなかにあり、数軒先に「松の湯」という銭湯がありました。

立派な門構えの銭湯建築、お湯は熱めの黒湯温泉、サウナあり水風呂あり、今思えばなんて贅沢な環境だったのでしょう。そのありがたみに気づくのは、ずっとずっとあとのこと。

家にはお風呂があったし、別に毎日行ってたわけじゃないけれど、お祭りの日には友達と行ったり、家族と行ったりした思い出があります。

中学生になっても高校生になっても、近所の友達とはたまに行ったし、ひとりでも気分転換に行ったりしていました。

でも「銭湯」そのものに興味はなく、他の銭湯に行ってみようともまったく思わなかった。「銭湯」って概念すらなかったかもしれません。私にとって松の湯は、家のお風呂の延長なのでした。


激務の花屋時代と銭湯

その役割が少し変わったのは、社会人になって働きはじめたときです。

当時、超激務な花屋に勤めていた私は、一日が終わると体ボロボロ。花屋ってほんとしんどいんですよ。寒いし、重いもの持つし、立ちっぱなしだし。

特に新人で力の入れ方がまだよくわかってなかった私は、すぐに腰や背中を痛めてしまうことに。

あるときにギックリ腰で1週間ほど起き上がれなくなり、その後は少し無理をするとすぐ再発するようになってしまいました。


お花屋さんにとって、一番寒く、忙しく、絶対に休めないのが年末商戦。

ある年の12月、このままだとまたギックリやりそうだな…という不安な腰をかかえていた私は「そうだ、松の湯だ!」と思い至り、仕事が終わったあと毎日のように松の湯に通いました。

冷え切った身体をあたためて、お湯の中でストレッチをする。

もちろん残業帰りで帰りは22時過ぎとかなので、一刻も早く寝たいわけです。それでも、営業時間ギリギリの松の湯に飛び込み、今日の疲れを少しでも回復させて明日に臨む…。あのときの松の湯は、まさに私の生命線でした。

「銭湯はからだにいいぞ」というのは、このとき松の湯に助けられたのが原体験です。


銭湯から遠ざかったひとり暮らし時代

そんな激務な花屋を辞め、実家を出てひとり暮らしをはじめると、すっかり銭湯とは疎遠になりました。私にとって銭湯=松の湯だったので、新しい地で銭湯を探してみようとも思わなかったのです。

今思えば近所に銭湯もあったはずなのですが、開拓することもなく、それまでほど体に負担のかかる仕事でもなくなったので、すっかり銭湯からは離れてしまいました。


蒲田に移り住んで開花した銭湯生活

そして次の引っ越しでやってきたのが、蒲田。

マンションにユニットバスはついていましたが、自宅で仕事をする構想だったため、ほぼ使えない状態に(風呂場を物置に改造)する必要がありました。

家ではユニットバスを使わないと決めたとき、自然と「まあ蒲田には銭湯がたくさんあるから大丈夫だろう」と思えました。

これも潜在意識に刷り込まれた、松の湯の効果でしょうか。


銭湯が好き、というよりは、家風呂の延長、という感覚。

キッチンが狭くて自炊ができないと外食がふえますね。それと同じで、マンションのお風呂が使えないなら、近場で外注しよう、という感じ。

そして幸運なことに、蒲田には思いがけず素晴らしい銭湯がいくつもあったのでした。(いつもお世話になっています)


銭湯とわたし。

いまでも私にとって銭湯は「風呂の外注先」。銭湯が好きなの?と聞かれると、「うーん、好きかな…多分」と言葉を濁してしまいます。

でも、あの広々とした空間、身体に染みる温泉の効果、水風呂との温冷浴、風呂掃除しなくてよいこと、番台や常連の方々とのゆるい交流など、自宅の風呂では代替できないものが多すぎて、いまや家風呂に入る選択肢などありえません。


当たり前のようにそこにあり、風呂のひとつの選択肢だった「松の湯」は、もう何年も前になくなって、建売住宅が並ぶ住宅地になりました。

時代は変わっていくけれど、大きなお風呂の良さは変わりません。

日常的に使える銭湯がなくなってしまったら…と思うと、それは困る。断じて困る。

だから銭湯を盛り上げる活動の手伝いをしたり、記事を書いたりしているのだと思います(微々たるものですが)。

そして何より大事なのは、自分が毎日銭湯を使うこと。なくなってほしくないものに、お金を落とすこと。

風呂なしの自分にとっては日常に必要であると同時に、そんな応援の気持ちもこめて、毎日銭湯へ足を運ぶのです。


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