VRC内での楽曲の使用について

5月11日16時半から、VRChatで法律問題について情報交換する集会場(第2回)というイベントを開催してみました。参加者は6名ほどで、様々な悩みについて、議論が白熱し楽しい時間でした。

その中で、VRC内でライブをする際に、他人が著作権を有する音楽を流してもよいかという話しが出てきました。

そこで、普段、著作権法をあまり取り扱っていないため、誤り等あるかもしれませんが、VRC内での楽曲の使用についてまとめてみました。

なお、著作権フリーの音楽であれば、基本的に下記のことは気にしないで良いですが、その場合には利用規約等に注意してください。

著作権とは

著作権とは、著作物を保護するもので、具体的には①複製権(著作権法21条)、②上演権及び演奏権(22条)、③上映権(22条の2)、④公衆送信権等(23条)、⑤口述権(24条)、⑥展示権(25条)、⑦頒布権(26条)、⑧譲渡権(26条の2)、⑨貸与権(26条の3)、⑩翻訳権、翻案権等(27条)、⑪二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)で構成されています(17条1項)。

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です(2条1項1号)。

VRC内のライブで楽曲を使用することについて

VRC内で音楽を流すことは、音楽を「演奏」するものとして、演奏権(22条)が問題となりそうです。

「第二十二条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」

なお、前記の「演奏」は、生演奏に限られず、CD等を再生することも含まれます(2条7項)。

しかし、著作権法上、「公衆送信」に該当する場合は、「演奏」には当たらないとされています(2条7項)。
「公衆送信」とは、
「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」(2条1項7号)
とされています。
これは、テレビやラジオでの放送や、ウェブでの配信等が該当します。

VRCで音楽を流すことは、ウェブでの配信等ですので、「演奏」ではなく「公衆送信」にあたります。

そして、著作者が「公衆送信」を行う権利を専有していることから(23条)、VRC内で音楽を流すには、著作権者の許諾が必要となります。

営利を目的としない上演等(38条1項)

VRC内で音楽を流すことが、営利を目的としない上演等として、例外的に著作権者の許諾なく演奏等できないでしょうか。

学校の文化祭で学生が行うライブ等は、営利を目的としない演奏として、著作権者の許諾がなくとも楽曲を演奏することができます(38条1項)。

「第三十八条 1 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」

この点、条文をよく読んでいただくと、「公衆送信」が含まれていません。「公衆送信」は、営利を目的としない上演等の対象外とされています。

したがって、VRC内で音楽を流すことは「公衆送信」にあたることから、営利を目的としない上演等として許容されることはないため、著作権者の許諾が必要となります。

Invite onlyのワールドでも著作権者の許諾を要するか

特定の人物のみが訪れるワールドであっても同様でしょうか。
「公衆送信」における「公衆」は、不特定の者に限られず、特定かつ多数の者を含むとされています(2条5項)。

そのため、特定かつ少数の者のみに限られた場所であれば、「公衆送信」に該当しないといえそうです。

また、「演奏」の観点からも、著作権者は、「公衆に…聞かせることを目的とし」た場合の「演奏」権を有しているに過ぎないため(22条)、特定かつ少数の者のみが入れるワールドであれば、著作権者の許諾は必要ありません。

したがって、invite onlyであれば、人数にもよりますが、著作権者の許諾が無くとも、VRC内で音楽をながすことができる場合があると思われます。

ただし、何名以上であれば多数、何名以下であれば少数と判断できる具体的な基準はなく、種類・性質・利用態様等によって人数が異なるとされているので注意が必要です。

例えば、友人1人を直接誘って、invite onlyのワールドで、友人1人のみを対象にライブをする際に音楽を流すということであれば、特定かつ少数の者に対するものとして、著作権者の許可なく楽曲を使用することができると思われます。

他方、invite onlyであったとしても、SNS等で観客を広く募集するような場合には、実際のライブの観客が1人であったとしても、希望すれば誰でも観客になりえたといった点等から、特定かつ少数を対象としているとはいえないと判断されるおそれもあります。そうなると、公衆送信に該当し、著作権者の許諾が必要になります。

後記音楽教室事件での判断内容からすると、複数回ライブを開催するような場合で、SNS等で観客を広く募集するような場合には、後記裁判例の音楽教室と生徒よりも、個人的な結合関係はないので、観客が「公衆」にあたると判断されるおそれがあると思われます。

※音楽教室事件(知財高判令和3年3月18日)
音楽教室において、教師が生徒に対して演奏した場合、生徒が「公衆」になるかについて、
「生徒が控訴人らに対して受講の申込みをして控訴人らとの間で受講契約を締結すれば,誰でもそのレッスンを受講することができ,このような音楽教室事業が反復継続して行われており,この受講契約締結に際しては,生徒の個人的特性には何ら着目されていないから,控訴人らと当該生徒が本件受講契約を締結する時点では,控訴人らと生徒との間に個人的な結合関係はなく,かつ,音楽教室事業者としての立場での控訴人らと生徒とは,音楽教室における授業に関する限り,その受講契約のみを介して関係性を持つにすぎない。そうすると,控訴人らと生徒の当該契約から個人的結合関係が生じることはなく,生徒は,控訴人ら音楽事業者との関係において,不特定の者との性質を保有し続けると理解するのが相当である。
 したがって,音楽教室事業者である控訴人らからみて,その生徒は,その人数に関わりなく,いずれも「不特定」の者に当たり,「公衆」になるというべきである。音楽教室事業者が教師を兼ねている場合や個人教室の場合においても,事業として音楽教室を運営している以上は,受講契約締結の状況は上記と異ならないから,やはり,生徒は「不特定」の者というべきである。」
と、生徒が「不特定」の者に当たるとした。

YouTubeをワールドに埋め込むことで著作権法上の問題をクリアできないか

YouTubeをワールドに埋め込んで音楽を流す場合、単にワールド上でYouTubeを視聴しているに過ぎないとして、著作権法上の問題をクリアすることができないでしょうか。

この点について、YouTubeの利用規約(https://www.youtube.com/t/terms)には下記のとおり記載されています。

許可と制限事項
「お客様は、本契約および適用される法律を遵守する限り、本サービスにアクセスして利用できます。お客様は個人的で、非営利目的の用途でコンテンツを視聴できます。また、埋め込み型 YouTube プレーヤーに YouTube 動画を表示させることもできます。
本サービスの利用には制限があり、以下の行為が禁止されています。」

「9.本サービスを個人的、非営利的な用途以外でコンテンツを視聴するために利用すること(たとえば、不特定または多数の人のために、本サービスの動画を上映したり、音楽をストリーミングしたりすることはできません)。」

規約によれば、埋め込み型YouTubeプレーヤーに動画を表示することは許容されてはいますが、「個人的、非営利的な用途」に限られています。

VRCのワールドに埋め込んで音楽を流すことは、「不特定または多数の人のために」「音楽をストリーミング」することにあたると思われ、YouTubeの規約上、禁じられることになります。なお、「不特定または多数の人のために」の部分は、前記の「公衆」と同様に考えられると思われます。

そのため、VRC内にYouTubeを埋め込んで楽曲を使用することは、基本的にはYouTubeの規約に反することになりそうです。

※元々グローバル前提で書いてしまっていましたが、ローカルで埋め込んでいる場合は、通常のウェブサイトに埋め込まれているものを各人が再生することと変わらないので、前記YouTubeの規約には反しないと思われます。

※この点について下記記事でより詳しく検討してみました。

JASRAC等と包括契約しているVRSNSを利用する

Clusterでは、JASRACおよびNextoneと包括契約がされているようです。
ただし、「自身で用意した音源等の場合のみ利用者側での個別の契約や利用料の支払いは不要」とされており、市販のCD等の音楽データを用いる場合は対象外とされているため、別途許諾を得る必要があります。

https://clusterhelp.zendesk.com/hc/ja/articles/360029523032-%E4%BD%BF%E7%94%A8%E6%A5%BD%E6%9B%B2%E3%81%AE%E7%99%BB%E9%8C%B2

自ら演奏した音源等を使用する場合には、Clusterでライブをするのも一つの方法です。

JASRAC等に使用料を支払う(著作権者から許諾を得る)

以上からすると、VRC内のライブで他人が著作権を有している音楽を流すには、著作権者の許諾を得る必要があります。
JASRAC管理楽曲であれば、一定の費用を支払うことで音楽を使用することができるようです。

非商用配信でストリーム形式であれば、同時送信可能数10曲までで月額3000円のようです。

ただし、JASRACは、レコード製作者等(レコード会社等)が有する著作隣接権について包括管理していないため、市販されている音源を用いる場合には、別途レコード製作者等(レコード会社等)の許諾を得る必要があり、追加で使用料を支払う必要があります。

※ツイッター上で寄せられた情報によると、VRCでの楽曲の利用について、JASRACは個別許諾していないようです。

まとめ

・VRC内で楽曲を使用するには、基本的に著作権者の許諾を要する。
・invite onlyであれば、募集の方法、人数等の具体的な事情にもよるが、著作権者の許諾を要しない場合があり得る。
・cluster等のJASRAC等と包括契約を締結しているVRSNSであれば、個別の許諾を要しない楽曲がある。
・YouTubeを埋め込んで音楽を再生することは、グローバルだと利用規約に反すると思われる。
・以上のことは、著作権フリー楽曲であれば気にする必要なし(ただし、同楽曲の利用規約等に注意)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?