#251 生きてるだけで丸儲け~ 感嘆する瞬間をありがとう
イギリスの冬は暗くて寒くて長い。
稀に二階の出窓にさんさんと陽が射して、二重窓の室内でぽかぽか気分を味わう日もないわけではない。たまにそんな「ご褒美の日」があることで「耐える冬」をやり過ごすことができているのかもしれない。
SADという症状がある。エスエーディーと言うが、サッドと呼んだりもする。英語の sad (悲しい) と同じっていうのがなんとも相応し過ぎやしないか。
季節性情動障害の病名がつくためには診断基準があるはずだが、seasonal (季節に) affective (影響されやすい) disorder (不調) という範囲に当てはまる人は多そうだ。結果、医師の診断を受けていなくても「私はSADだから」と皆が表現しやすい言葉になってしまっている気がする。
自身も、「ほら私、SAD(的な、アレ) だからさぁ‥‥」などと言えば誰からもちゃんと分かってもらえている。
私がイギリスの冬に影響を受けているのは間違いなくて、このごろ憂鬱な気分になっていた。
SとAとD。アルファベット3文字は雄弁だ。
さて、ばら売りされているアルファベットが目の前にあったら、どんなワードを作りたいだろう?
いつだったか、ある町のヴィンテージのお店で、取り壊されたPUB (パブ) の外看板に使われていた一字ずつ独立したアルファベットを見つけた。
複製でないオリジナルのショップサイン(看板文字)はカッコよかった。何フォントっていうのか専門的なことはわからないが、3Dで金と赤のコンビネーションの色にも痺れた。夫とふたり一文字ずつ物色し始めた。
組み合わせてなにか言葉が作れるか?
そんな時のそれは大概、売れ残った人気のないアルファベットばかりなのが常だ。我が家の家族全員のイニシャルをチェックしたが、該当者なし。
ここまで読めばお気づきのことと思うが、熟考の上私たちが買ったのが、WふたつとO。ヘッダー画像のWOWが選ばれし3文字だった。
ずっと仕舞ってあったこのWOWの文字をどこに飾ろうか、夫にアイディアが降ってきたらしい。週末はギコギコ、トントンDIYに没頭していた。
使ったものは築110年の我が家の床板。最近ゲストルームの床を二箇所張り替えていた。取ってあった古い床板が壁掛けの背景になり、金色の文字が目立つようにダークワックスをかける。そこに廃材で枠を作り、夫が完成させた壁掛けがこれ。
夫は、接着する代わりに文字の裏に釘を使い「飛び出す感じ」を出してくれた。
家のどこに掛けたかというと、
今、私は我が家のWOW効果にとても驚いている。予期していなかったことが起こっているのだ。
暗くてどんよりした一日の始まりに、
外は暴風雨で轟々する昼下がりに、
ちょっと心がギスギスしている就寝前に、
前を通ると勝手に文字に目が行き、そんな気もないのに、「WOW!」を言ってしまうのだ。ほとんど条件反射と言っていい。
まあそのうち慣れれば、声までは出さなくなるのだろうか。(たとえ心の中だけでも)、WOW! と感嘆している時は「ショボイ」顔ができない。
考えてみたら、いつも笑顔で前向きに!というのは無理だ。気持ちが乗らないことなんてやらなきゃいいと思う。ただ、つまらない時でも「WOW!」と言っちゃった瞬間に心がフワリと浮くのだ。
まるで、幸せだから笑うというより、笑ってるだけで幸せになってくるように…
ワオワオ言ってたら多くを望む必要がない気がしてきた。すごい効果だ。
「生きてるだけで丸儲け」だなんて思えるんだから全く不思議だ。