#43 行かないでほしいのに、押し出してやらなきゃと思う
息子が自分の部屋で大声で笑っている
なにがそんなに可笑しいのか・・・と、こちらもつられて笑うくらい楽しそうに
思えば、この一年間と少し、学校の友達と会えなくなったり、
最終目標として頑張った試験が中止になったり、散々な高校生活だったはずなのだ。
コロナウィルスは世界中で肌骨を驚かした。だが、とりわけこれまでに15万人の死者を出したイギリスでは、何ひとつとして人が集まって楽しいことが許されなかった。
一番、青春を謳歌したい時にそんなものをポキッと摘み取られたようで、
ティーンエイジャーだから多くを語らないことが
よけいに痛々しいのだった。
そんな息子が、これからも授業はオンライン、友達と出会う学生生活への夢も持てない
そんな大学への進学を、今はしないと言った。申し込みもしなかった。
イギリスでは、18歳で大学への入学切符を手にした後、入学を一年間遅らせて、旅に出たり、仕事やボランティアをして過ごすギャップイヤー (Gap year) を取る若者も多い。
ただ、ギャップイヤーを取ったところで、世界は旅をする仕様にはなっていない。
さあどうするのだ‥‥という葛藤を抱えながら、息子は
なんだか何もしていないように見えた。
ほんとはなにもしてなくていいから、そばに居てほしい気持ちはあった。たくさんあった。
でもバカな私は彼の背中を押し続けた。
そしてとうとう彼は、ひとり
北海道に農業を手伝いに行くことになった。
飛行機も取った。
バカだな私。
これから夫と喧嘩したら、誰が仲直りを仕掛けてくれるの?
具合が悪くてベッドで寝ていると、小さかった彼は、何度『Get well soon (早くよくなってね) 』のカードを作ってそうっとドアの下の隙間から押し込んでくれたことだろう‥‥
今、お粥作って、と頼めば、味噌とねぎとを入れて卵もかけてくれるのもこの子だ。
具合が悪くなったら、夫しか居ないのか‥‥って考えると、夫だって十分に優しいのに、なんだか寂しいかもな‥‥
息子と私
最近は、お互い言葉にしないけど、時を惜しむように
一緒にビーチで過ごす。
そして、私の楽しみのシーグラスをたくさんたくさん拾ってくれるのだ。
まるで意味のないことだけど、何かを拾い集めるという行為が、少しだけ
私たちの心許なさに
そっと絆創膏を貼ってくれている気がする。
なにがそんなに可笑しいのかわからないけど、
笑っていてくれる限りホッとする。
わらえ わらえ
彼の人生が愉快であれ