#250 こんなことあるぅ⁉ Ep2 狂い咲いてる桜
11月も半ばに差し掛かった日のことでした。
家の裏庭の桜の木の葉っぱがこのくらいに色づいていました。
秋が深まりかけたその日、出かけた先で目にした光景。その違和感に足が止まりました。
ちょっと周って角度を変えたら、
「こんなことあるぅ!?」
つい口をついた言葉でした。
公道ですから英語な筈なのに、出てしまった一言。
赤くなった葉とピンクの花が一緒に木についているのを見たのはこれが初めてだったのです。
「狂い咲き」という言葉で思い出すことがあります。
私がイギリスで夫と知り合った当時、私には婚約者が居ました。結果的に私が彼を裏切ったことで、夫や子どもたちとの今の人生があります。日本で始まった生活でしたが、25年前、いよいよ日本を離れてイギリスに移住することになりました。
その時のことです。自分で捨てておきながら昔の恋人に「とうとう日本を離れることになりました」とemailを書かずにいられなかった身勝手な女、それが私でした。
寒い寒い冬の日でした。当時家族で住んでいた木造の貸家の火の気のない二階で、かじかむ手でキーボードを叩き、震えながら送信ボタンを押しました。
その時にふと窓の外に見えたのが、そんな季節に咲いているべきじゃない、しかもなぜだか二階の窓から見えるほど顔を伸ばした一輪の薔薇の花でした。
「狂い咲きじゃん‥‥」
そう思った時、
「私ってヤツは… 今頃どの面下げて….?」
自分とその薔薇が重なって滑稽すぎて痛かったです。
あの人とどうなりたいわけでもなかった。言葉にすると陳腐だけど、謝ることが「この世の名残」だったのだと思います。
たった今、秋の歳時記に「帰り花」という言葉を見つけました。「狂い咲き」の別の呼び方だそうです。
考えてみたら、イギリスでは桜の木自体が日本より圧倒的に少ないのです。あの光景を見て「初めてだ」と言うのは、私くらいなのかもしれません。
帰り花…
なんて粋な呼び方でしょうか。
「狂い咲き」というと非難めいた響きがあるのに。
自分が違った境地であったなら、寒さの中で咲いている健気さに力を貰ったかもしれなかったのに…
「帰り花って名前知っていたかったな」
25年前のあの自分にそう思うのです。