#135 コーンウォールよいとこ一度はおいで!① コーニッシュパスティ編
先日の投稿でイギリスの食べ物をディスった私ですが、
いやいやどうして、何十回も食べている安価な食べ物でありながら、やっと「これは!」というものに遭遇した、そんな話です。
いざコーンウォールへ
コーンウォール地方はイングランドの最南西部に位置している。イギリス地図では左下に突き出したのがそれである。
隣のデヴォンに住み、週末の旅行に来た私たちは、St.Ives (セントアイブス) というリゾートタウンにやって来た。
こんな田舎のはずれにテートという大きな美術館まであるのだから、この町がタダモノではない芸術の魂で満たされていることがうかがい知れよう。
多くの芸術家が好んで住んだ町は可愛い。この可愛い町を記事にしようと写真をいろいろ撮ったのに、もたもたしてたら月が替わってしまった。
このまま書きそびれて終わりそうだったので、「食レポ」のようなものになるが、それを残しておくことにする。
地元のパン屋さんとの出会い
この可愛い町は都会から多くの観光客も呼び寄せる魅力を持っている。
新しくお洒落なものがどんどん足される町で、変わらずそこにあり続けるものもある。
私たちが以前利用した地元のパン屋さん、S H Ferrell and Sonは既になくなっていた。Instagramを見ると去年の10月いっぱいで75年以上の営みを終えたとのこと。
「閉まっちゃったね‥‥」そう呟いたふたりの目の前にこんなパン屋さん。
一番下の列のパンの美味しそうな焼かれ具合と言ったら‥‥
「絶対これ美味しいやつや‥‥」そんな店があると、私は焼き立ての胡桃のローフが食べたくてたまらない。
夫が中に入ってクルミローフの有無を訊いてくれたおかげで、ちょうど店の奥のオーブンからコーニッシュパスティが上がってくるところに立ち合えたのだ。
お店から顔を出して「ミズカ、パスティ食べる?」と。
「食べる!」
"Stake pasty or Stake n' Stilton?"
"Shortcrust or flaky?"
初めの質問はパスティの中身で、ステーキパスティかステーキ&スティルトンチーズのどっちがいいか?という確認。
次のはパイ生地がスコーンのような食感のショートクラストか、ミルフィーユのようなパリパリの層のフレィキーのどっちにする?という確認だ。
私は定番のステーキ、夫はステーキ&スティルトン、外側はふたりともフレィキーのほうを選んだ。
ステーキパイといっても、中身はジャガイモ、Swede (スゥイード) という根菜、玉ねぎ、にんじんなどと一緒に一口大の牛肉が料理されたものなのだ。黒胡椒も効かせてある。
厳しい鉱山の歴史
コーンウォールといえば鉱山だった。
海辺には漁業があっただろうが、それ以外の僻地に鉱山以外のなにがあっただろう‥‥
Redruth (レッドルース) という町なかではこんなものを目にした。
鉱夫たちの履いた古い長靴で犬を作り銅像のように固めたストリートアートだ。
鉱山での労働はきっと過酷で命がけの仕事だったに違いない。
この長靴たちが、今や犬となって、コーンウォールの労働者の歴史を伝えてくれている。
町の人の意見には賛否両論あったらしいが、私はとても意義のあるサステイナブルアートだと、評価している。
コーニッシュパスティの誕生
労働者たちは錫の鉱山で働いていたので、過酷な作業の合間に食べられる食事が必要だった。
そこでアルファベットの「D」の形にペイストリーを綴じて焼いたセイボリー (食事になる) パイが生まれた。
労働者たちは、毒性のある錫にまみれた手で食べる部分に触れないよう、波型の綴じ口部分を持ちながらパイの中身を食べるのだ。
食べ終わると手が触れていた部分を捨てればよいだけ。
そして、朝焼きたてのパイを紙で包んでカイロのように懐に入れていくと、身体も暖かでいられ、昼食時には適温になっているという生活の知恵だったのだ。
なんて合理的な食べ物なのだろう。
雨、雨、雨
その日は朝から晩まで100%の雨予報だった。
イギリスで雨を避けていたらなにもできない。
誰も傘をささないお国柄だから、すっぽりかぶるフード付きのレインコートを着てみんな歩いている。
きっとほとんどの人が私たちみたいなホリデー客だと思った。
じゃなければわざわざ雨の降りしきる中を濡れて歩く必要がないではないか。
砂浜の海岸を歩き、岩の上で飛び跳ねた。
海岸線が見渡せる丘の上までも歩いた。
港のほうへ歩き、メインストリートも散策する。
その間も、空からは容赦のない雨が絶え間なく降りてきていた。
今まで食べた中でダントツで美味しかった
「オーブンから出てきたばかりなので、20分待ってからたべてください」
そう店主は言ったのだという。
20分も待ってせっかくの焼きたてが冷めたらいやだと私がごねた。
雨宿りのように立ち止まっていた、営業してないビストロの店先で、私たちはなし崩し的にパスティをかじり出すことなった。
旨い。旨すぎる。
まだまだホフホフいうくらい熱い。
焼きたてってなぜこんなにも美味しいんだろう‥‥
私のランチ、こんなところで立ち食いで終わってしまうはずじゃなかった。
一口食べとこ、のつもりだったのに夢中で食べきったのだ。
まるで過酷な鉱山さながらに、悪条件であればあるほどコーニッシュパスティは美味しくなるのかもしれない。
イギリスならどこででも食べられるというものではない。
フィッシュアンドチップス店の数と同じくらいコーニッシュパスティの専門店がある地域、それはコーンウォールとデヴォンくらいのものだ。
そのくらい地域密着型の食べものとなる。
私にとって馴染みが深いのはそのためだ。
そんな私が言う。
「これ食べるためにまたコーンウォール行けるわ~」ってくらい美味しかったの~~!
また歩いてまた濡れて、ようやくテートギャラリーの前まで来て、夫がおもむろに出したのは「ついでに買ってた」という甘い系のペイストリー1個。
誰もいないテートの円形のポーチにのんびり座って、ふたりで半分こにした。
半分のペイストリーはまたも私たちを笑顔にし、またたくまにふたつの胃袋に収まりましたとさ。
最高かよセントアイブスベーカリー。この美味しそうなサイトご覧あれ。
言っちゃ悪いけど‥‥ほかで食べてもこんなに美味しくないからね💦
そういえば‥‥
クルミパンのことなんかすっかり忘れてた。