見出し画像

#256 きっと甘えたかったし庇って欲しかったんだ、私。


身の回りでちょっとしたトラブルが起きた時、できるだけ人の心を傷つけないように、相手に気を遣わせぬように配慮すると思う。
いかにも「こんなことなんでもないから」感でさらりと、気づかれないようにカバーする感じだろうか。

自分の『いい人アピール』をしたいのではない。
そんなことは自然で当たり前のことだと思ってきた。

ただ、近しい人の中にそうでない人が居た。本当に居たのだ。
夫の母だ。

嫁姑関係は難しいものだと子どもの頃から構えていた。父が長男であることから『本家』で生まれ育ち、嫁である母の大変さをずっと見て育ったからだ。
その点、自身の結婚では外国人同士であるという土台がどれほどの緩衝材になったことか、その恩恵は計り知れない。

この時期ポッドキャストを聴くと、年末年始の義実家での話題から嫁姑(舅)間の難しさに触れたものが多かった。
わかるわかる。体験したものも体験していないものも、その場の様子が手に取るように伝わってくる。
違うやり方のもとで生きてきた人間同士が家族になるのだ。自分のやり方が正しい、とか一番だと思っていたらぶつかるのは仕方のないことかもしれない。

これから書くことはできるだけ姑への批判にならないようにと願う。なぜならば結婚して30数年のあいだ、反論できずにこんなもんだと受け入れてきたのが自分だ。老いて弱った義母に、今になって文句を言うのはフェアじゃない。
ただ単純に気づいてしまったことがあるのだ。

イギリス人の義母は何かにつけて、私を庇ってくれない人だった。
私が夫の小言をいう時は、それなりに可愛いらしい愚痴に決まっている。ちょっと言えばそれをわかっている母なら同調してくれるのでは‥‥ そんなつもりで言った小言は全面的に否定され、ドラマに出てきそうな微笑ましい嫁姑の結束は起こらなかった。


それでも、そばに実母が居ない私は、得意な相手とはいえない姑に期待を託してしまったことがある。
39歳で妊娠した際に、病院から呼び出しを受けた。イギリスでは高齢出産に該当する妊婦にダウン症スクリーニングを勧めるのだと知った。今では記憶は曖昧だ。単純に年齢でいけば168分の一の確率でダウン症の可能性がある。もっと検査すればその数字よりもリスクが高いか低いかがわかると言われた。
私はこの時の気持ちをうまく言い表わせる言葉を持たない。なぜそんなスクリーニング検査を受けさせるために呼び出されたのか?そうやってリスクが確認されたらその出産を諦めるでしょうという前提が我慢できなかった。世の中のダウン症の人は天使なのだ。スクリーニングされてこれから仲間が減っていくなら、現存のダウン症の人やその家族はどんな気持ちを持てばいいの?
心がかき乱された。同意せずに病院を後にしたが、心が収まらず直行したのは義母の家だった。同じ母としてお義母さんにだけはわかってほしい心情だったから。

義母からは「あなたがどんな意見を持とうと夫(自分の息子)に相談もなく検査を断って来るべきじゃないわ」とため息をかれた。(それを夫に言われるならわかるけれど。その夜、夫は私の考えに賛成してくれた)

こんなことを思い出してしまったのには理由がある。

クリスマス期間に家族が集まって食事をしている時のことだ。
娘婿むすめむこのペッパーミル(黒胡椒をガリガリ出すやつ)が力余って蓋が外れ、瓶内の胡椒粒を全部お皿にぶち撒けてしまった。その瞬間、私にも義実家で全く同じことをした経験が甦ったのだ。
あの時はよりによって塩だった。さあいただきましょうという食べ物にぶち撒けた塩。緊張してる時ってなんであんなことしちゃうのだろう‥‥
娘婿には「私もめっちゃおんなじことやったの!全然気にすることないよ〜」と目にも止まらぬ速さでもう一度新しくサーヴした。(一個ずつの塊り肉でなくてよかった!)
30年前のあの時、義母は本当に呆れていたと思う。義姉妹たちは気遣ってくれたが、私のお皿はそのまんまで私の前に置かれたまま。塩をこそいで食べようとしたが、とても食べられたものじゃない。恥ずかしい忘れてしまいたい食卓の記憶だった。
けれど、このフランス•イタリアのハーフくん、頭脳明晰なのにおっちょこちょいな婿どのが同じことをやってくれて、感謝している自分がいる。
なぜなら、私があの場面でしてもらいたかった事をしてあげることができたから。あの時の自分を慰めるように。

自分の当たり前は他の人の当たり前とは違う。
何十年生きても相変わらずそうだ。
だけど「そんなのあたりまえじゃん」とは言わないでいよう。
結局のところ、私は義母に甘えたかったし、庇って欲しかったんだ!って、気づいたのはそういう話だってことだ。




いいなと思ったら応援しよう!

コノエミズ
最後まで読んでいただきありがとうございます。スキのハートは会員じゃなくてもポチっとできます。文章書くのに時間がかかる私です。あなたのスキが大きな励みになります♥