「ミッション乱高下!」第7話
明日から夏休み。生徒が浮足立っている。
銃は丁重にハルカに返却した。くれぐれも人前で出さないように、と念押ししておいた。
ハルカは、良子と少し話すようになった。
教室に入った良子が、笑顔でハルカに声をかける。
「おはよう!」
「……お、おはよう」
「お、ちょっと声大きくなった?」
「そ、そう?」
「うん、いい感じ」
ショートホームルーム前の教室。英莉はつい、この二人が話していると見てしまう。ハルカが上手く教室で過ごせているかが気になるのだ。後でハルカから、「じろじろ見ないでよ」と言われてしまいそうだ。
良子はハルカにスマートフォンを見せている。また、上手く撮れた花の写真を見せているのだろう。ハルカはたまに頷きながら、良子のスマートフォンを見ている。興味を持っているのかは、表情からは分からない。しかし、良子が話しかけてくることを嫌がってはいないみたいだ。
「せんせーい」
男子生徒が、英莉に話しかけてきた。
「この前母ちゃんが、沖津先生のこと見かけたって。『担任の、英語の先生でしょ?』って、また間違えてた」
この見た目ではよくあることだ。英莉は苦笑して答える。
「ああ、よく言われる。この白衣着てないと、化学の先生だって分からないよね」
「先生、ハーフだったら、ミドルネームとかあるの?」
「……あー……あるにはあるけど……」
英莉が渋りながら答えた瞬間、
「え!?聞きたい!」
会話を聞いていたのか、周りから生徒が集まってきた。しまった。
「えー……恥ずかしいからあんまり……」
「教えてよー!」
生徒たちがわくわくと目を輝かせて英莉を見ている。それに気圧され、渋々英莉は口を開いた。
「…………キャロライン…………」
英莉が消え入りそうな声で言った瞬間、生徒たちがどよめき、爆笑した。
「沖津・キャロライン・英莉?カッケー!!」
「キャラに似合わねー!!」
「やば!芸能人に見えてきた!!」
「もう、人の名前で笑うの良くないよ!ちょっと、あなたたち、いじり過ぎ」
そう言いつつ、英莉もつられて笑った。
その様子をハルカがぼうっと見つめている。
「沖津先生、あんなに沢山の人に囲まれて……笑ってて、楽しそう。いいなあ……」
驚きと憧れを含んだ表情で、ハルカは英莉を中心とした人だかりをじっと見ている。
「淵上さん?どうしたの?」
良子が声をかけるが、ハルカは考え込むような表情で黙っている。そして、何かを決意したように、人だかりへ歩いて行った。
「キャ、ロ、ライン先生」
「もーだから、沖津先生だってば……」
英莉が振り返ると、声をかけたのはハルカだった。思いがけないことに、英莉は黙る。英莉を囲んでいた生徒たちも黙る。
一呼吸の静寂の後、ハルカが口を開いた。
「今日、園芸部の活動ってある?」