見出し画像

【恋愛小説】私のために綴る物語(17)

第四章 うたかたの京都(3)

「それじゃぁ、行きましょう」
 きよはるは多香子を立つように促した。この男の自分を見る目の色が変わっているのに気がついた。なんだろうこの目の昏さは。
「どこに? 魔窟ですか」
 不自然なくらいに多香子はおどけてみせた。まさか、こんなことが自分にできるなんてまだ信じられなかった。
「新しい世界への扉を開けるんです」
「あの、お会計は?」
「すんでます」

 そう言って笑われると、多香子は受け入れるしかないと決心した。
「ごちそうさまでした」
 覚悟を持って多香子は席を立つと、きよはるに腰に手を回されていた。

 二人で、きよはるの部屋へと向かっていった。

「広いですね。セミスイートといったところですか。私の部屋とはかなり違うんですね」
 多香子が夜景を眺めていると、きよはるは近づいてきた。
「どうですか、もう少し飲んで、話しませんか」
「秘密組織について、話していただけるのですか」
「まぁとりあえずお座りください」

 さすがにきよはるも、ここまで来ると苦笑いしかなかった。

「SMの愛好者はそんなに多くないですからね。多少のグループは作っています。ライブハウスみたいなところを貸し切りにして、緊縛ショウをやったりもするんです」
「そこで、体を開く女性が必要で、私がスカウトされるということですか」
「確かにスカウトしたい気持はあります。あおいさんは感じやすい体を持ってますからね。でも、好きではないと言う人には無理です」
「感じやすい体、ですか」
「さっき、手をもんでいたら、感じると言ってましたよね」
「でも、私は、ご主人さまと言うことも、命令に従えって言われることも嫌いなんです。何よりも口で男性を満足させる行為はできない。やってみたことはあるんです。色々な意味で気持ち悪くなってしまって」
「わかりました。そういうプレイをして欲しいとは言いません。もう少し遊びとしての行為ならどうですか」
「ソフトなものですか。ちょっとした仕掛けのルールの上で、と言うことですか」
「興味はあるのでしょう。だからここにいる。もし東京で会えるのなら、ゲストとしてご招待しますよ」
「確かに興味はあるんです。でも、怖いのも痛いのも嫌です」
「わかりました。これで、同意はできましたね」

 そういって、きよはるは多香子の前に立って、キスをするように言った。少し背伸びをして、きよはるの唇から舌を伸ばして絡めあった。お互いの口を貪り合い、息が苦しくなるまで続けた。その最中多香子から声が何度も漏れていた。

「あおいさん、シャワーを先に浴びてください」

 その言葉には素直に従って、シャワーを済ますとタオルを巻いて出てきた。その姿に満足したきよはるは、最後通牒だと言った。

「私が、シャワーをすまして出てきたら、プレイの始まりです。もし、嫌ならばそれまでの間にここを出ていってください」

 多香子は出ていくことはなく、そのままの姿で、ベッドに腰掛けていた。出てきてそれを見たきよはるは、無表情のまま多香子の隣りに座った。そして無言で多香子の唇を吸った。声が漏れるとそこでやめていた。

「君は本当にいやらしいんだな。これくらいで感じるとは。これから、私が許すまで、声を出したり、体を動かしたり、自分から求めるようなことをしたら、お仕置きが待っている」
「わかりました」

サポートいただきますと、資料の購入、取材に費やす費用の足しに致します。 よりよい作品作りにご協力ください