【恋愛小説】私のために綴る物語(23)
第五章 一期一会と二律背反(3)
ホテルの部屋に帰ると多香子は一層暗くなった街を眺めていた。
槇村の視線は多香子の胸元から胸のラインに常に注がれ続けた。執拗でエロティックな目線だった。
「今晩はここに泊まりなさい。いいですね」
槇村の冷たさと熱が入り混じった目が多香子の胸を刺していた。言える言葉は一つだけだった。
「はい」
多香子が答えると、槇村はドレスを脱がした。ビスチェで胸を持ち上げた姿を眺め、ベッドに腰を掛けると膝の上に座るように言った。その通り座ると首筋から胸元を撫で回されていた。
切なくなった多香子はキスをねだってみたが、全く反応しなかった。
「多香子、これからしばらくは君は僕の人形だ。今から起こることに声を上げるな、そして君から求めることはできない。いいね」
風呂場に連れて行かれると、お互いに裸となり、多香子を洗うとタオルを巻き付け、自分はバスローブを着ていた。そして、多香子に薄物の着物を着させると、縄を掛けていった。足の間にも通されると流石に声が出た。
それでも、胸の上下と合わせても簡単なものなのはさっきの女性と比べても明らかだった。手も後ろ手に縛られると、まさに人形だった。動きの取れない物にされた意味がわかった。出来上がると姿見の前に立たされた。
「もう、感じているようだね」
ツンと立っている胸を撫でられた。おもわず「あっ」と声が漏れた。
普段と違う冷たいこの声に、魅入られてしまったようで、この男には敵わないと思った。それは、今まで男には湧かなかった感情だった。強さを感じる男だからこうしてここにいるのだと。
「さぁこっちに来るんだ」
槇村に抱き上げられ、ソファに運ばれた。背中に男を感じながら、力を抜いて寄りかかっていた。
座らされたまま何もなく、いつの間にか槇村の気配もなくなっていた。暗く電気を消した部屋に、ベッドの読書灯だけが灯されていた。
不意に部屋のチャイムが鳴り、槇村は開けると女を招き入れた。
その女は、シャワーを浴びて出てくると、ベッドのヘッドボードにもたれている槇村に寄り添った。そして男のものをしゃぶる音が聞こえると、多香子は怒りで頭が壊れそうになっていた。
そう、だから、こういうことを、この男は、見せるのか。
「あの人形にキスをしてくるんだ」
槇村の指示通り女が来て、多香子にキスをした。口をギュッと結んで、唇を当てる以上のことはさせなかった。
「本当にお人形さんなんだぁ」
呆れたようにベッドに戻る女と槇村をにらみ続けていた。
女の上げる嬌声を聞き続けることも、不愉快でしょうがなく、ただ早く終わることだけを祈るようになっていた。もう一刻も早くここを立ち去りたいが、縄を解かれないと無理ということに、絶望していた。ふたりの上がっていくテンションが、ブツッと静かになった。
女は風呂場に行ったようだった。
槇村が近寄ってくると、多香子は一層怒りをぶつけていた。
「触らないで、早くこれを取って。こんなところにいたくない」
困った顔をして、多香子をなだめようとしていたが、怒りに油を注ぐ形になってしまった。
「触らずには解くことができないぞ。触ってもいいね」
「ほどくためなら我慢する。でも必要以上に触らないで」
「わかった」
これだけずっと喚き散らしていると、うんざりしていたようだった。多香子の言う通り縄をほどいていた。
サポートいただきますと、資料の購入、取材に費やす費用の足しに致します。 よりよい作品作りにご協力ください