【恋愛小説】私のために綴る物語(3)
第一章 10年ぶり(3)
多香子が家についた頃を狙ったのか、塚嶺からメールが来た。
本当ならいろいろな宣伝メールに、埋もれて気が付かないことが多いのに。
『澤田さんへ
今日は付き合ってくれてありがとう
あなたに付き合っている彼がいることは認識しています
その上で少し相談があるので、あってください
来週の日曜日はいかがですか
塚嶺正弘 』
これなら、断りやすくてよかったと多香子は思った。多香子の趣味は野球・サッカーの応援と旅行だった。地元の野球やサッカーチームの遠征にも行くことがある。だから土日はどこかの球場にいることが多いのだ。
『塚嶺さんへ
申し訳ございませんが、土曜日曜は用事が入っています
これからしばらく同じです
お会いするのは無理だと思います
澤田 多香子 』
明日は福岡に行くため、朝も早いから彼、夏川史之が近くまで来て、車で空港に行くことになっている。だからちょっとした荷物を持って、早く起きることだ。そのためには早く寝なくては。ここで、メールもSNSも終わり。シャワーを浴びてベッドに飛び込んだ。
次の朝は目覚まし通り早く起きた、何しろ初便で福岡に行くのだ。そのためにはリムジンバスや電車では間に合わない。だから、車で行くしかないのだが、多香子は車の免許すら持っていなかった。夏川の車がないと、行動ができないことが多かった。頼りにしている、それは車がきっかけでも繋がりを深めるきっかけでもあった。
その朝も時間より少し前に夏川は多香子の家の近くについていた。
家を出た多香子は、夏川の車を見つけると慌てて乗り込んできた。
「ごめん、待った?」
「いや、まだ予定時間前。それじゃぁ動かすね」
「福岡楽しみだなぁ。昼は何食べる? イカの活き造りもいいし、うなぎもいいね。泊まれれば夜、餃子を食べたかったし、史くんがいるんだったら水炊きとか、モツ鍋も」
「多香子は食べることばかりだ。まぁ仕方ないか」
ふふふふんと笑いながら、多香子は話をしていた。
「でも、うどんは苦手かも」
「そうだったね。それで、昨日は楽しかった?」
やっぱり来たと、笑顔のままどう話そうかと考えていた。
「うん、まぁ。久しぶりに集まるって言っても、結局いつものメンバーと喋ってた」
「男子とはどうだったの」
史之が気にしてくれるのが、少し嬉しかった。そんな史之の表情を伺いながら、多香子は笑ってみせた。
「最初だけ。席割りで適当にふられたから」
「仲良かった男子とか、いたんじゃないの」
「ねぇ、史くん。そんなに気になるなんてさ、史くんが同窓会のときに、初恋の相手にあわよくばって、思っていたんじゃないの。なんかがっかりだぁ」
多香子はわざとおどけて見せることで、夏川の話が深く入ることをやめさせようとしていた。
「がっかりか。でも、男なんてそういうものだろ」
多香子の目を一瞬睨みつけるようにしていた。その鋭さに不思議なものを感じて、でも、おどけた感じは続けた。
「ふーん。浮気の理由探しているみたいだよ。だいたい、可愛かった子ほどおばさんになってた。がっかりした人も多かったんじゃないの」
「女も怖いな」
「そうだよ。女子のほうが怖いかも。思い出じゃなくて、ちょっとしたことで張り合ってるし、値踏みしてる」
運転をしている史之の横顔を見て、すっと通った鼻筋が、整っていて素敵だと改めて思った。180cmぐらいの身長も申し分ないはず。出身大学だって、勤め先だって誰もが知っているところ。それ以上にああ言えばこうと言うと、敬遠されがちな自分を面白がってくれるし、理解してくれている。話のテンポが近くて、こんなに話していて、ストレスのない人なんて、そうはいない。
もしも、スポーツ観戦仲間のサークルに入らなかったら、知り合うことなんてなかっただろう。そうだ、大事にすべきは、史之なのだと多香子は考えていた。
空港の駐車場につくと、わざわざ人気の少ない所に停めた。
「僕は昨日週末なのに一人で夕食を食べた。少しでも僕が可哀想と思うのなら、埋め合わせをしてほしいな」
史之は本当に寂しそうに見えた。そんな史之に多香子はドキドキしていた。埋め合わせって、寂しかった夜を宥めてっていうこと。それって‥‥。
「埋め合わせって。えっ。どうすれば」
考えがまとまらなくて、キョロキョロしている多香子を見て、史之は可笑しかった。
「こっちを向いて。そう、僕を見るんだ」
多香子の顔が史之の前で止まると、両手で頬を挟んで、口づけをした。そして、何度かついばみ合ってお互いが欲していることを確認すると、舌を絡ませあった。
多香子から「う、ぅん」という声が漏れると、史之は首筋に唇をずらし、シャツのボタンを胸が見えるところまで外していた。
今度は胸の谷間に顔を埋めていた。ブラジャーを少しずらし、ふくらみを口に含んでいた。思わず声が出そうになったが、多香子は恥ずかしさから口をしっかりと閉じてこらえていた。史之の舌は固くなった蕾を器用に転がしていた。恥ずかしさと、声を立ててはいけない緊張は、より感覚を研ぎ澄ましていた。
多香子からは「ぅん、あぁ」と声が漏れていた。息が苦しくなったのか、史之が塞いでいた口を離して、はぁと息をついた。
そこで、ふっと我に返った史之は、時計に目をやった。
「多香子、君はひどいな。もう、ここを出なくては。早く」
そう言いながら多香子の胸をブラジャーに納め、シャツのボタンをはめた。多香子の体には熱だけが残っていた。
「続きは中洲でしようか」
多香子はうなずいていた。