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【恋愛小説】私のために綴る物語(22)

第五章 一期一会と二律背反(2)

 期待に胸が膨れてきた金曜日の夜、新しく買ったグリーンのタイトなワンピースを着て、きよはると待ち合わせ場所のホテルに急いだ。

「お招きありがとうございます」
 多香子の姿を上から下までなめるように見ると、男は言った。
「あおいさん、私の部屋に行きましょう」

 多香子の腰に手を回すと、エレベーターに乗せて、部屋へと連れて行った。スーツケースからシュミーズドレスと言った感じのワンピースを何枚か出すと、多香子に当ててみていた。
「あおいさん、これに着替えてください。申し訳ないが、それは野暮ったくて」

 着替えようとする多香子に近づくと、タンクトップと一体になった下着を脱がし、代わりにビスチェを着けさせ、胸を強調させるとシンプルなサテンのワンピースを被せた。

「これは?」
「申し訳ないが、妻だった人のものです。離婚して結構経ちます。たぶん、貴女の服では無理があると思って持ってきました。サイズが合ってよかった」
「一度しかお会いしていないのに、服のセンスを言われるとは、少しショックです」
「まぁ、行ってみればわかります」

 意味ありげな眼差しを向けながら、男は苦笑いをしていた。多香子はもう一つ男の言った言葉に気がついていた。

「離婚されていたのですか」
「性癖がバレましてね。あっちょっと失礼」

 多香子を後ろから抱きしめ、胸元に手を入れると、よりバストが強調させるように収めていた。

「貴女のは私の理想かもしれない」

 あっけらかんと笑う男に、多香子も笑っていた。その様子を見て、真剣な顔に戻って、切り出していた。

「もう、お互いをきちんと知っても良いのではないですか。私はこういうものです」

 多香子でも知っている、雑誌を出し開くと、その男について書かれていた記事があった。そこには心理学者で精神科医、クリニック経営、槇村晴久38歳とあった。

「槇村晴久と言います。メンタルクリニックをやっています。独身です」
「私は、名刺も持っていなくて。澤田多香子です28歳。私も一応独身です」
「多香子さん、私のプライベートパートナーとしてで、よろしいね」

 槇村は多香子にキスをしてきた。これもまた同意を表すキスだと思うとためらいもないわけではなかった。しかし唇が合わせられると、受け入れお互いに貪り合っていた。

「まったく、貴女の貪欲さには感心する」
「褒め言葉といただきます。それで、私は実験材料にもなるんですか。ドクター」
「確かに、もっと知りたいですね」
「本当は先に言っておかないといけなかったのですが。私には交際中の男性がいます。まだ結婚とまではいかないつもりですが」
「そちらのお相手には?」
「当然秘密にします」
「わかりました。私も澤田さんを恋人とは思ってもいませんし、独占欲はないはずですから。安心を」

 今度は、多香子が槇村にキスを求めた。言葉通りと思っていいのか、この男がこの場をまとめるために言ったのか、本当はどちらでもいいと思った。そう、自分は踏み出してしまったのだ。

 二人で笑いながら見合うと、多香子はすこしはにかんでいた。すこし緊張していた多香子に、顔がよく見えないようにレースが垂らされた帽子を着けさせた。

「では、出かけましょう」
 ホテルの前に止まっていたタクシーに乗ると、行き先を告げた。そのスタジオに着き中に入ると、身なりの整った紳士淑女の社交場のようだった。そこで、着替えさせられた意味もよくわかった。

 周りの人たちが気になって落ち着かない多香子は、槇村に尋ねていた。

「この人達が秘密組織の人なんですか」
「皆がというわけではないです。今日はゲストも多いので。でも多香子さん、そばを離れないでくださいね。連れて行かれても知りませんよ」

 驚いて、えっという顔をしていたのだろう、槇村は笑っていた。

「人身売買するわけないじゃないですか」
 先に空いている席に座ると、隣に座るように促していた。
「そろそろ始まります。座って」

 多香子が右隣に座り帽子をとると、左手をもう取っていた。耳元で、しっかり見てくださいねと囁くと、胸元にキスをしていた。
 ショーはかなり過激なものだった。腰巻きだけを着けた女性が縛られていくさまを見るのだが、主人は縛っている人なのかと聞いてみた。

「舞台の人が主人と相手ということなのですか」
「多分違います。緊縛師という専門家に任せているはずです。主人は見ているだけでしょう」
「それでも、あの様に恍惚とした表情を」
「信頼関係というか特別なつながりを持つのです。相手にとってはすべて主人の喜びであり、自分にとって歓喜とでも言うのですかね。痛みや屈辱といった感情を超えられる時に得られる快感ですね」

 白い肌に赤い縄がはっていた。乳房のところは亀甲模様にされ、女は恍惚として笑みさえ浮かべていた。股間にも縄はかけられていて、多香子には辛そうなのかよく分からなかった。
 そうしている間に女は縛られ吊るされていた。暗転して緊縛師が舞台から消えると、今度は若い男が出てきて性的な行為を始めた。
 女が明らかに興奮してくるのがわかる頃には、多香子は見ることができなくなっていた。

 槇村は多香子の顔を見て耳元で言った。
「しっかりと見なさい。そのために来たのでしょう」
「私、アダルトビデオも見たことなくて。他人の行為をこうして」
「私はあなたにも、あの赤い縄をその肌に這わせるつもりです」

 槇村は握った手に刺激を与えると、多香子はびくっと動き、声がもれないように口を閉ざしていた。その様子を見て、笑っていた。ショーの方は女がエクスタシーを得るとベッドに降ろされて終了となった。座席が明るくなるとすぐに帽子を被るように言われた。

「やはり、そういう目で見られますからね。気をつけてください」

 確かにこの露出の高いドレスもあって、視線を感じることも多かった。顔はどうあれ、好みの体型の女を連れていることは、見せたいのだと流石に気がついていた。いっそのことと、胸を張り姿勢を正して、歩いてみせた。その姿を見て、槇村は満足そうに笑っていた


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瑞野明青
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