【恋愛小説】私のために綴る物語(33)
第六章 再構築の前に(2)
車は突然、ルートを変えて行くのがわかった。国道沿いのラブホテルに乗り入れていた。
「他の人を気にせず、話をするにはここしか思い浮かばなかった。降りてくれないか。すまない」
史之がすまなさそうに言うので、多香子はわかったと言うしかなかった。
手をつなぐこともせず、照れもせず、少し距離を持ってという不思議な形だった。
「ごめん、多香子を抱きたいんだ」
部屋に入るなり、史之が言った。
「それは、嫌だっていってもね。何もしないって言ったでしょというのだろうけど。わかりきった嘘だよね。はぁあ、乗った自分が馬鹿だ」
どこかでこうなることを望んでいた。それを隠すため、ため息を付くと、多香子は風呂場に向かった。
突然肩を抑えられ、抱きしめられると、史之の顔がかぶさってきた。口を吸われると、多香子からも求めていた。
「やっぱり、多香子は変わっていない。こんなに僕を」
そう言いながら、多香子のシャツのボタンを外し始めた。
もう、戻ることはできない。
目を閉じて、その瞬間を見ないようにしていた。
「なんで、目を閉じるのか。今更恥ずかしがる必要ないのに」
ふっと、その手が止まった。
シルクの上質なスリップが現れ、ブラジャーも見えるようになっていた。
多香子はその後のボタンを外し、ボトムスのパンツも脱いだ。ガーターベルト姿が見えると、史之は絶句していた。
「君はこんなものいつから使うようになったんだ」
どうにか口にしただろう言葉を、多香子は切り捨てた。
「だから、ここに来たくなかったのに。人の言うこと聞かないから」
ため息を付きながら、史之の顔を見て言った。
「あなたの知らない男に買ってもらったの」
「‥‥」
「君の愛する人に会うのなら着けていけと」
「多香子の愛する人って」
「その男には、私には別に愛する人がいるって言ったの」
「‥‥」
「そう、史之がやり直したいと思っているなら。‥‥抱いてくれる?」
多香子は史之を見上げて言った。その表情をしっかりと見ておかなくては、次にすすめない。目が泳いでいた史之は無言のままだった。
「そうだった。史之にはふみかさんが‥‥」
「文華は叔母なんだよ。年が近いから、女関係で面倒になると彼女のふりをしてもらうんだ」
「なんで、そんなことを。あの時もう戻れないっておもったのに」
多香子は絶句していた。文華は明らかに敵視していた。だから、それなのに。
史之は文華がいったことを思い出さずにいられなかった。
「あの二人きっとお初だよ」
頭に血が上って、感情の抑えが効かなくなっていた。多香子を押し倒すと、乱暴に下着を取っていた。
多香子はベッドサイドテーブルの上にあった避妊具を差し出していた。それを受け取り、合意だと思った史之はジーンズと一緒に下着も脱いでいた。
ゴムを付けると、そのまま多香子の中に押し入っていた。そのまま前後に動き、多香子の膝を折り、体重をかけた。悲鳴とも官能の喜びともつかない声をききながらも、動くのをやめられなかった。そのまま、果てた史之は多香子を撫でつづけた。
「ごめん。僕が余計なことをしたから」
「なんで謝るの。史くんの情熱を感じてうれしかった」
多香子は苦笑いをしていた。史之は丸ごと今の多香子を、受け入れるしかないと思った。
「キスをしよう。多香子の気が済むまで。そして、多香子が嫌だというまで、愛撫する」
「だいじょうぶ。優しくやり直してくれれば、史之のボディローションの香りで十分感じられる」
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