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読み終わって「ありがとう!」と叫びたくなった『俺たちの箱根駅伝』

『風が強く吹いている』『チーム』『Run!Run!Run!』私が読んだだけでもいくつかすらすら出てくるくらい、箱根駅伝というスポーツを追った小説は少なくありません。
池井戸さんが箱根を描くというんだから、これはきっと靴も書くに違いない、大人のドロドロも書くに違いない…わくわく。と、どこか邪念に満ちた気持ちで読み始めたのですが、途中から目から出る汗をこらえられず、鼻水垂らしながら読み終えました。


もちろん小説なのですが、まるでノンフィクションを読んだ時のようなリアルな感触が残っているのです。読了した今、今年2回目の箱根駅伝を見守り終わったかのよう。
逆境小説という惹句の通り、決して王者の立場にはいず、苦難を抱えた人物たちが戦っていく物語です。もちろん主役は走る若人たちなのですが、この小説では箱根駅伝を様々な角度から支えている「大人」たちを丁寧に書いていきます。
だからこそ、大学生の頃の真っ直ぐな気持ちを失いかけている(のは私だけか)我々のようなボロボロ社会人にも刺さってきます。

例えば、猛烈に働いてきたけれど今の生き方でいいか悩んだ商社マン。レジェンドと言われたけれど、次の世代へのバトンタッチを余儀なくされた監督。スポーツ中継のあり方に悩むテレビマン。走ること以外に物語を持たせるべきか、箱根駅伝の在り方を考える多くの人々。
一つ一つは「小説あるある」かもしれず、どこかに「で、結局それなりの結果を残しちゃうんでしょ」という池井戸さんあるあるも感じます
あらすじだと、「壁にぶち当たった箱根駅伝関係者が、箱根までの日々に苦闘しつつ、往路5区、復路5区を走りきる物語」でしかないのだけれど、それが涙流さずには読めない感動物語になりました。
これからは箱根駅伝を見る目が変わるだろうし、もうね、給水のシーンとかでも泣いちゃうかもしれない。

久しぶりに読み終わってどこかに向かって「ありがとう!!」と叫びたくなるような小説でした。上下巻ですが、あっという間に読めるはずです。


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