空を仰がずにはいられないミステリ三冠『われら闇より天を見る』
ミステリランキング三冠というのはそうそうはないことで、メディアはもちろん、身近なところでも読んでよかった、面白かったという声を聞いてきました。それをようやく読了。
もともと翻訳本を読むのが得意な方ではないので、冒頭で流れに乗るまではなかなか苦労しました。主人公のダッチェスがヤングケアラーのような状態にあって、それでも自分で自分を”無法者”とレッテルしつつ無茶しながら痛々しい頑張りをしているので、まあつらい。ミステリランキング1位を獲っているならば謎解き要素はあるのだろうけど、もしやこのまま青春小説として進んでいくのか…とも思ったくらい。安心してください、謎はあるし、すばらしいドミノ倒しも用意されています。
舞台はアメリカのカリフォルニア州の海沿いの町。
景色は良さそうなのだけど、写真で見るような抜けるような青空を想像できず、頭に思い浮かぶのは閉鎖的な田舎町のどよーんとしたイメージばかり…読んでいて痛かったけれど、これだけの厚さの本ならば何かもっと隠されていることがあるはずだ、と、その謎解きの瞬間の盛り上がりを頼りに読み続けました。
これだから紙の本で厚さを感じるのって大事よね。
少年が、事故により子どもの命を奪ってしまった事件が、この町を覆う厚い雲。そして刑期を終えた彼、ヴィンセントの帰還が新しい事件への引き金になっていく…という連鎖の物語でした。
ほんとうに不幸な連鎖の物語。
こういった連鎖を断ち切れるのはどんな存在なんだろうか、と読み終わった今もまだぼんやりとしています。「謎が解けた!わーい!」という盛り上がりどころじゃなかったし、多分、もう一度読み直す必要がありそうです。
原題は『WE BEGIN AT THE END』。その直訳の方がよかったのではないかという意見も多いようですが、私はカリフォルニアの空のイメージがどう変わったかという読み方をしていたので、この邦題も胸に響くものがありました。
ミステリランキングの三冠を達成し、読み継がれるべきような小説の力というのを改めて感じた作品です。冒頭が無料公開されているのでぜひぜひ