『世界を変えた「海賊」の物語 海賊王ヘンリー・エヴリ―とグローバル資本主義の誕生』
伝説の海賊王といったら「ゴール・D・ロジャー」が有名ですが(あ、ONE PIECEで、ね)、こちらは実在した海賊王の物語。そして、ただの冒険譚や恐怖譚ではなく、彼らがグローバル資本主義の土台を作ったというお話。海賊と経済の関係を語る本はけっこう多くて『海賊の経済学』というのも出ています。
領土を守ろうとする国々の間をすり抜けて財をなす海賊達。ただ、金にするには地面に下りないといけないわけなので、その関係性を築く事が必要になるわけです。あちらこちらでその関係性を築いた結果、それが世界経済というものに繋がっていった、と。もちろん、海賊本なので堅苦しい経済話だけに閉じず、どこか(というかほぼ?)フィクションめいた冒険譚がこれまた面白いです。ヘンリー・エブリーも元々はイギリス海軍に雇われたわけで、そこから反乱して海賊になって、そして恋にも落ちて…と色んなドラマ盛り沢山。
個人的に興味深かったのが海賊達が上手にメディアを利用していた。という話です。
最近「こたつ記事」ってのが話題になってますが、昔のメディアは「喫茶店記事」だったんですって。この、海から遠く離れた喫茶店で、海賊の極悪非道ぶりを盛りに盛って書いていたメディアによって海賊が必要以上の力を持つことになります。
海賊の方にとってもこのメディアとのタッグはちょっとしたエコシステムで、極悪非道ぶりがスゴければスゴいほど人は恐れてくれるので、血塗られた特徴的な旗を見たとたん戦わずして船を譲ってくれる人が増えてくる、と。上手く出来てるなあ…
海賊は、この効果を狙って、死人に口なしを徹底せずに、生き証人を陸に戻すのです。生きた証言は(これまた盛りに盛られて)人々に語り継がれ海賊の力になる。そして、この海賊大活躍時代と活字文化の隆盛がちょうど被ってるということも意味があったようです。
建物や遺産を残す陸の文化と違って、海は物語を残すしかなかったんですね。そしてメディアのこの活躍は、現在のテロリズムとも密接に関係している。と著者は説いています。
この本の出版の少し前に『アウトロー・オーシャン』という本が出版されています。
こちらは未読なのですが、内容情報やレビューを読む限り、現代の海賊はより狡猾に、ある意味でより私たちの生きている世界に密接に生きているのかもしれません。