【映画レビュー】『カラオケ行こ!』:こういう映画いいね!
たくさん笑って、少し泣いた。映画を見ていた2時間弱、現実世界でのいろんなことを忘れさせてくれた。ああ、こういう映画もいいものだなあ。
こういう映画のことを語るのは難しいかもしれない。
何かを語りたくなる映画ではない
綾野剛演じるやくざが、中学校の合唱部の部長を務める男子中学生に、カラオケボックスで歌をうまく歌う方法を教えてもらうという話。その理由は、組長が主催するカラオケ大会で最下位になると、変な刺青を掘られてしまうという、たわいもないことだ。
それ以上の特に大きなストーリーがあるわけでない。
中学生のほうは、部活での悩みごとを抱えている。でも、そういうものを表に出すことはなく、じっと自分の胸の中に秘めている。描かれ方もさらっとしていて、見るものには、思春期の繊細な気持ちの揺れがそっと伝わってくる感じだ。なんだかとても好感が持てる。
やくざのほうも、カラオケ大会以外のエピソードはほとんど描かれない。少しだけ出てくるのは、破門したヤク中の男の切り落とした指が出てきたり、その男に襲撃されたりというエピソードくらいだ。いろいろヤバいことをたくさんしているのだろうなという想像はできるが、なんとなく伝わってくるくらいだ。
いずれにしても、中学生の悩みとか、ヤクザの問題とか、そういうことについて何かを語りたくなる映画ではない。
もっぱら興味を惹かれるのは、カラオケというものを通じての、ヤクザと中学生の主人公二人の、交わりと掛け合いだけだ。
人たらしに憧れます
ヤクザと中学生のやりとりは、微妙な距離感と絶妙の間合いで淡々と描き出される。原作漫画は読んでいないが、映画としてとてもうまくいったのではないかと思う。主役の二人が本当によかった。
斉藤君が演じる中学生は、感情をほとんど外に出さないながら、心の中ではいろんな葛藤があるのだろうなということが感じられて、応援したくなるキャラクターだ。
そして何より、綾野剛の人たらしぶり。きっと悪いことをたくさんしているが、なぜか惹かれてしまう。こういうやくざはいそうだ。
やくざでなくても、人たらしというのはどこにでもいるものだ。悪い奴なんだけれど、憎めないというか、好きになってしまう。
中学生に対しても、本当に気遣って優しくしているのか、うまく利用しているだけなのか、心の中が見えない。もしかすると騙されているのかもしれない。でも自分のことを思ってくれているような気がして惹かれてまう人は存在するのだ。
なんだろうなあ。私も人たらしになりたいものだ。そんなんだから、きっといろんなトラブルを抱えることになるだろうが、そのときも、お得意の人たらしぶりで、何とか乗り切ってしまう。そういう人生は、私の人生とは全く違うが、あこがれてしまう。
とにかく、この二人を主役にしたことで、映画の成功の8割ぐらいが決まったのではないかと思ってしまう。
「紅」がこんなに切ない歌だったとは
映画を見ている間は、ほとんどにやにやしていた。楽しかった。
その中でも、ダントツにおもしろかったのは、カラオケのシーンだ。
「紅」にこだわっていたやくざは、中学生に曲を変えた方がよいとアドバイスされ、いろんな歌を歌ってみる。でも、1曲ごとに「紅」を挟んでしまうのだ。そこはもう笑いがとまらなかった。
それにしても、「紅」の最初の英語の部分の関西語訳が出てくるのだが、この歌がこんなに切なくて苦しくて深いものだったとは初めて知った。ヘッドバンギングしながら歌うイメージだけが強かったのですが、いや、本当に切ない歌です。
とにかくそんなこんなで、楽しんだ2時間だったが、最後は泣いてしまった。
映画が終わった後、一緒に見に行った人が「こういう映画いいね」とポツリと言いました。私はどちらかというと、考えさせる作品や、心をかきむしられるような作品が好みなのですが、その言葉に同意して「うん、いいね」とすぐに言葉を返しました。
実はその日は気分が沈んでいて、少ししんどかったけれど、この映画のおかげで、また生き延びることができた感じです。うん、確かに「こういう映画いいね」です!