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【創作シナリオ】短編ラジオドラマ『彼女は愛にあふれすぎている』

 人との距離感って難しいなとつくづく感じます。一人一人それぞれ、思いの強さやベクトルは違います。だから、自分の感覚は相手と合ってないのではと不安になります。いや、別の人間だから、合わなくて当然なのです。
 それでも、人は人とのつながりを求めてしまう生き物。そして、食い違って、もがき苦しむ……そんな悩みに救いがあればと思って書きました。
 某シナリオコンクールに応募しましたが、箸にも棒にもかからずでした…でも、よろしければ、ぜひ読んでみてくださいませ。


登場人物

大島弘美(20)大学生
吉田ケイ(20)大学生
増本さえ(75)ケイのアパートの大家


あらすじ

 大学生である弘美の友人ケイは、困っている人をほっておけない。でも、思い込みが強すぎて、いつも最後はウザがられて傷つくことを繰り返している。弘美は、ケイに対して人と深く関わりすぎないよう忠告するが、ケイは相変わらず、溺れた人を助けるために海に飛び込もうとしたり、捨て猫を拾って帰ろうとしたりする。弘美はそんなケイを叱る。
 そんなとき、弘美は、彼氏から電話で急に別れを告げられる。それを聞いて必死に力になろうとしてくるケイに対して、弘美は、ほかの人たちと同じように「ウザい」と言い放ってしまった。その後、ケイと音信不通になる。
 なんとか引越先を探してケイと出会えた弘美は、そこでのケイを見て、愛にあふれるケイのことを絶対大切にしようと強く誓うのだった…


シナリオ


弘美(モノローグ)
「わたしにはケイという友人がいる。北九州の大学に、関東から来ている数少ない同級生ということで、私たちは親しくなった」

ケイ「弘美。私、また嫌われたみたい」

弘美(モノローグ)「ケイは愛にあふれすぎている人だ」

ケイ「困ってるって言われると、なんとかしなくちゃって思っちゃうんだよね」

弘美(モノローグ)「ケイはいつも誰かのことを考えすぎて、相手からウザがられる」

弘美「前にも言ったけど、ケイが誰かのことを思っているほど、その人はケイのことを思ってくれてないんだから。また『ウザイ』って言われて、泣いたんだろ?」
ケイ「うん」
弘美「そんなに痩せちゃってさ」

弘美(モノローグ)「ケイは懲りずに同じ過ちを繰り返し、そのたびにボロボロになる」

ケイ「たぶん、自分の何が悪いのか、わかってないんだよね」
弘美「人間関係は距離が大事なんだよ。あんまり近づきすぎちゃダメ」
ケイ「距離?」
弘美「近くに寄られすぎると、重たくなって、『ウザイ』って言いたくなるんだよ」。
ケイ「そうなの?」
弘美「なんていうか、一生思い荷物を背負わされる恐怖感というか……。まあ、とにかく傷つくのはケイだけで、傷つけたほうは平気なんだから。近づきすぎちゃだめ」
ケイ「わかった。……弘美はすごいな」
弘美「なんだよ急に、気持ち悪い。とにかく自分を大切にしなくちゃ」
ケイ「うん」
弘美「今度こそ学習しろよ。……ところで」

  岩に波がぶつかる音

弘美「どうして、わざわざ海に来た?」
ケイ「だって、大事な人と大事な話をするとしたらやっぱり海でしょ」
弘美「もう! だから、そういうところだよ!こんな話、学校の近くのカフェでよかったじゃん。なんだったら立ち話でもいいぞ」
ケイ「ごめん…」

  岩に波がぶつかる音

弘美「あ、いやいや別に謝らなくても。海に来たって悪くないから。海は気持ちいいし」

弘美(モノローグ)「そう、ケイはいつも悪くなんかないのだ」

ケイ「弘美、今日はこのまま歩いて帰りたい」
弘美「え、歩いて?」
ケイ「私、とてもうれしいんだ」
弘美「何でだよ?」
ケイ「だってさ、弘美は本当に私のこと考えてくれてるって感じるから。だから真剣に注意してくれるんだなって……あ、これ大丈夫? 重くない?」
弘美「私には気を遣わなくていいの!」
ケイ「でも、弘美にまでウザイって見放されたら、もう私生きていけない」
弘美「いや、いいって。私も今日は散歩したい気分だから。ほら行くぞ」
ケイ「でも、あれ」
弘美「もうホントにいいから」
ケイ「いや、あの」
弘美「私も散歩したいんだから」
ケイ「いや、ちがうの。ほら、あれ見て!」

  岩に波がぶつかる音

ケイ「人よ。玄界灘の荒波に人が浮かんでる!おぼれてるのよ! 行かなきゃ」
弘美「ちょっと待て。飛び込むのか?」
ケイ「とにかく行かなきゃ」
弘美「行ってもどうしようもないだろ!」
ケイ「でも、ほっておけない! 行かなきゃ」
弘美「待てよ! ケイ! 待て!」

  頬をぴしゃりと叩く音

ケイ「痛……」
弘美「ケイ! なんにもわかってないよ! 私の話、聞いてたのか?」

  遠くでパトカーのサイレンが聞こえる

弘美「(優しくなだめるように)誰かがもうパトカー呼んだから。もう大丈夫だから」

  パトカーの音が近づいて止まる。
  人々がざわざわする声が遠くで聞こえる

ケイ「私、だめだね……ごめんなさい」
弘美「こっちこそ、叩いたりしてすまん」
ケイ「ううん」
弘美「帰ろ」
ケイ「うん」

  音楽

弘美「暗くなってきたな」
ケイ「もうすぐ着いちゃう」
弘美「おい、やめろよ」
ケイ「なんでー、腕組んで歩こうよ」
弘美「私は嫌だから」
ケイ「えーどうしてー」

  ニャーという子猫の声

弘美「ん、なんだ?」
ケイ「あーっ、猫の赤ちゃん! 4匹も」
弘美「捨て猫だな」
ケイ「かわいそう」
弘美「だめだぞ、拾っちゃ。ケイのアパート、ペット飼えないだろ」
ケイ「でも……」
弘美「だから、だめだって。ケイが同情してもどうにもできないんだから」
ケイ「そうだけど……」
弘美「きっと誰かが見つけてくれるさ。こんなにかわいいんだから」
ケイ「そうだといいけど、もし…」
弘美「ほら、行くぞ!」
ケイ「でも」
弘美「行かなきゃダメだって! ほら!」

  ニャーと鳴く子猫の声が遠くなる
  携帯の呼び出し音が鳴る

弘美「あ、ちょっとごめん」
ケイ「うん」
弘美「もしもし。健太、どうしたの? えっ、何言ってるの急に。ちょっと待って、どういうこと? そんなのちゃんと会って話そうよ。ねえ。ちょっと待ってよ。おい!」

  電話が切れる音

ケイ「どうしたの? 健太君?」
弘美「別れたいんだって」
ケイ「えっ?」
弘美「別に好きな人ができたんだって」
ケイ「そんな、急に…」
弘美「もう終わりだって」
ケイ「ひどいよ。弘美、彼のことすごく大事にしてるのに」
弘美「大丈夫だから」
ケイ「私、許せない。絶対許せない!」
弘美「もういいから」
ケイ「何かできることない?」
弘美「ちょっと一人にして」
ケイ「えっ?」
弘美「いまあんたの面倒見てる余裕ない」
ケイ「でも、だって」
弘美「ウザイんだって! とにかく、じゃあ」
ケイ「弘美……」

  音楽

ケイ(モノローグ)「私は結局彼氏と別れた。その間、すったもんだして、ケイとは、あのとき以来、一か月ほど連絡を取っていない」

  電話の呼び出し音

留守電の自動応答「呼び出しましたが電話に出られません。ピーとなったら10秒以内にメッセージをお話しください」
弘美「もしもしケイ、弘美だけど。元気? 連絡できなくてごめん。留守電聞いたら、連絡くれないかな。待ってるよ」

弘美(モノローグ)「そのあと何度連絡しても、ケイからの返事はなかった」

弘美「もしもし、弘美です。この前はごめん。許して、ケイ。だから連絡ちょうだい」

  携帯の留守電のあとの「ピー」

弘美「ごめん、ケイ。あなたは悪くない。悪いのはあなたをないがしろにする人たちだ……。よし!」

弘美(モノローグ)「私は走った。ケイのアパートへ」

弘美「ハアハア(息づかい)」

  呼び鈴の音。ピンポーン。
   ピンポーン、ピンポーン

アパートの大家「あの、ここの大家ですけど、何か御用?」。
弘美「私、ここに住んでるケイの、いや吉田さんの友人ですけど、連絡がとれなくて」
アパートの大家「ケイちゃんなら引っ越したよ。急にここにいられなくなったからって」
弘美「それはいつですか?」
アパートの大家「一か月くらい前かな。明日にでも引っ越したいって言いだして……。いい子だったんだけどねえ」
弘美「あの、ケイの引越先わかりませんか?」

  呼び鈴の音。ピンポーン
  ピンポーン、ピンポーン
  ドアがガチャリと開く音

ケイ「あ、弘美」
弘美「あ、弘美、じゃないだろ。どうして勝手に引っ越すんだよ。電話も全然返事くれなかったじゃないか」
ケイ「ごめんなさい。でも…」
弘美「でもじゃないだろ。どうしてだよ。私がひどいこと言ったからか?」
ケイ「いや、違うの」
弘美「じゃあ、どうして」
ケイ「私、やっぱりだめみたい」
弘美「えっ」
ケイ「相手が望んでないのに近づきすぎちゃう。距離がとれない」
弘美「いいんだよ! 私にはどんなに近づきすぎても、やりすぎてもいい。(泣き声になって)いいんだから……」
ケイ「弘美、泣いてるの?」
弘美「ごめん。私、あなたを踏みつけにした。『ウザい』って言った。みんなと同じだ」
ケイ「全然そんなことないよ。」
弘美「許して、ケイ」
ケイ「弘美、謝らないでよ」

  ニャー、ニャーという猫の声

弘美「えっ?」
ケイ「あ」

  ニャー、ニャーという猫の声

弘美「もしかしてこれ、この前の捨て猫?」
ケイ「あ……うん」
弘美「結局、連れて帰ったの?」
ケイ「うん」
弘美「私にあそこまで言われたのに?」
ケイ「うん」
弘美「だから、急にペットの飼えるところに引っ越したのか?」
ケイ「うん、ごめん…」
弘美「……フフフ、やっぱり、ケイ。やっぱり、あなたやりすぎだわ。どうしようもないよ。だから自分を変える必要ない。傷つくこともあるかもしれないけど、ケイはケイだから。本当にもうー、フフフフ」
ケイ「フフフフ」
弘美「ハハハハ」
ケイ「ハハハハ」
弘美「ん? その壁に貼ってあるのは何? 人形?」
ケイ「わー、これは見ちゃだめ」
弘美「いいから、どいて、ケイ。見せてよ。おじゃまするよ! なに、これ。藁人形じゃん」
ケイ「あ、それは、その」
弘美「怖いよー。ん? ケ・ン・タ……健太って。何これ。なんで健太の藁人形に釘を打ち付けてるのよ」
ケイ「だって、弘美を悲しませる奴は許せないから。絶対に許せないから……。ごめん、またやりすぎちゃった」

  ニャー、ニャーと猫の声

弘美「(ぼそっと)学習しなくちゃいけないのは私のほうか……。よし、決めた! 私もケイを悲しませるやつは絶対許さない!」
ケイ「え?」
弘美「とことん追い詰めてやる」
ケイ「どうしたの弘美?」
弘美「私はあなたの思いに応えるよ。どんなに強すぎる思いも受け止めるから」
ケイ「弘美」
弘美「だって、こんなにも愛にあふれた人は、ほかにいないじゃない。素敵じゃない。ケイは愛にあふれた素敵な人なんだから」

   ニャー、ニャーと猫が近づいてくる

(終わり)

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