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2本目の万年筆

まずは1本目の話をしよう。

プラチナ万年筆の「プレジール」。1本1000円という安価でありながら、インクを差したままの状態にしていてもインクが固まることなく、半年後でも1年後でもなめらかに書けるという「スリップシール機構」を搭載している。見た目の高級感から、万年筆初心者にオススメされやすい。

2013年に購入したこの1本。カートリッジインクを替え替え彼是もう7年近い付き合いになるが、未だに現役。キャップを外せばいつでもどこでもスラスラ書き出せる有能な1本だ。ただやはり万年筆という特性上、紙とインクの相性に踊らされ、カートリッジインクではどうしても滲みやすい紙が一定存在していた。ボールペン感覚で万年筆を使いたかったが、いつしか「手書きツイート」や「手紙」という中でしか存在を見せることは少なくなっていた。


正確に言うと、今愛用している万年筆は2本目ではない。多分、数えに数えまくったら…7、8本目くらいだと思う。間に何が居たか、というと、kakunoだとかpreppyと言った安価万年筆が居た。しかしこれらは生憎「ダメにしてしまった」万年筆たちだった。プレジールの書き味を知ってしまうと、安価で替えが利く万年筆の書き味はどこか野暮ったい。次第に私の手を離れていき、思い出したころには使い物にならなくなっていた。

手入れを施してみても復活することなく、勿体無いなぁと思いながら諦めてゴミ箱に投げること数回。メーカーにこの場を借りてお詫び申し上げたい。使いこなせなくてごめんなさい。私じゃなくてもっと使い倒してくれる人の所に行けば幸せになれた文具が何本も居ました。


「一生プレジールだけで生きていこうか」と思い万年筆の追加購入をやめた。どの道使いこなせはしないものを、わざわざ買う事もない。とは言えやはり万年筆インクの滲みやすさが災いして、私は普段の生活の中で万年筆を使うことが目に見えて減っていった。今でもキャップを開ければいつでも書き出せるのに…と無念さを抱きながら、普通のボールペンで生活していた。



新しい手帳を買おうと思っていた。「トラベラーズノート」という手帳だ。その手帳のメーカーは昔から愛用しているメーカーで、その会社の紙は「万年筆によく合う」ということも知っていた。その手帳自体も10年以上前から販売を続けており、トラベラーズファクトリーが独立する前からその存在は知っていた。大体FacebookやTwitterなどで「万年筆でも裏映りしない紙を見つけました!」という言葉と共に投稿されているのはそのメーカーの用紙。「今更気付くんかい」と心の中でつっこみつつ、自分がそれを使いこなせていないことに後ろめたさもあった。

手帳を買おうと思ったキッカケは、偶然見た動画で愛用している人が居たから。言うなればその人(達)のファンだった。昔から欲しかったその手帳を、その人が愛用品として紹介していた。綺麗に年季の入った革の手帳が羨ましかった。今から使えば、私もあんなふうに使えるのかな、と夢を見た。気付いたら、手帳を購入していた。


2本目の万年筆の話をしよう。LAMYのAl-Ster、パープル。定価5000円のところ、偶然見つけた文具屋のオンラインショップで、コンバータ込みで3500円。値段がネックだった訳じゃないけど、「あ、このタイミングで買わないと後悔するかも」と思って購入ボタンを押した。ちなみに、コンバータは別売りである。

3年前、付き合いの長い友達から誕生日プレゼントにPILOTのボトルインクをガラスペンと共に貰った。もったいなくて使えなかった。ずっと飾ったままだった。

2本目の万年筆を買おう、と決めたのは、同じ動画がキッカケだった。全く違うデザインだったけど、LAMYの万年筆を愛用しているらしかった。元々LAMYの万年筆も欲しかった。見た目可愛いじゃん…。でも、何本もダメにしてしまった過去がよぎる度、私には高い買い物だ…と諦めてきた。

実は動画を見たのは3ヶ月前だ。それからずっと考えていた。ズボラな私に、こんな良いものを扱えるんだろうか、と。ガサツで物を失くしやすくて、壊すことも多い私が、皆が愛用しているのと同じ物を、正しく”使えなくなる”その日まで使い切ってやることが出来るんだろうか、と。ただただ不安だった。


手帳を買って、手元に届いて。リフィルをセットしたら既にお気に入りの1冊の出来上がり。まだ何も書いてないのに「あぁ私この子と一生生きていくんだ」と思っていた。リフィルの上に1本目の万年筆を走らせる。黒いインクが滑らかに文字を綴っていく。何ページ目かを書き終えて、思った。綺麗なインクを乗せてあげたい。あぁそうだ、貰ったインクがあったなぁ。あのブルーブラックのインクで書いたら、このページはもっと綺麗になるんじゃないかなぁ。

ネットで見つけた2本目が届いて、慣れない手付きでインクボトルからインクを吸い上げた。何度も何度もネットで読んだ、コンバータの使い方と万年筆の使い方。万が一の時に、もう二度とゴミ箱に放り込むなんて真似をしないように。インクをセットしたら、紙の上にペンを走らせた。そのインクに名付けられた言葉と同じ、「月夜」の様な綺麗なブルーブラックがペン先から描かれた。こうして、私は2本目の万年筆を手に入れた。


万年筆によく合う紙を知ったのが8年前、1本目の万年筆から7年、その手帳を最初に欲しいと思ったのが6年前、買えないまま過ぎた5年。インクを貰ったのが3年前。動画を見た3ヶ月前。手帳の購入を決めた2週間前。2本目の万年筆が我が家に来たのは5日前。
8年越しに、私は一番欲しかった姿を手に入れた。きっと他の人みたいに綺麗にデコレーションしたり、毎日日記を書いたりという事はしないだろう。でもこれは私の手帳で、私の万年筆。紙が合わないなら合うものに書けばいい。きっと探せばもっと沢山あるはずなんだ。

1本目も2本目も、私の愛用万年筆です。1本目は見た目が高級そうに見えるので、契約書とかそういうタイミングで使っていきたい。なんせこの子は半年、1年経ってもインクが余裕で出るからね。いつでも使える有能な子だ。2本目はボールペンの代用品くらいの気概で使い倒してやるんだ。スケジュールも、メモも、全部。「万年筆だったの?」って言われるくらい、日常的に使いまくってやるんだ。


万年筆って、「毎日書くこと」が一番のメンテナンスなんだって。「毎日書かなくても使えた」1本目が、私の初めての万年筆で良かった。きっとこの子までダメにしていたら、私はこの先一生万年筆を買わなかっただろうから。人生に必要か、と言われたら、きっと要らないものだと思う。でも、あったらちょっとだけ幸せになれるものでもあると思う。だから、私はこれからも沢山使っていきたい。


ところで、貰ったインクは2本あったんですよ。まだもう1本、試してないんだけど…これはガラスペンのお供にしようかな。書き慣れたら、手書きnoteでも使っていきたいと思います。やっぱり文房具だからさ、飾っとくだけって勿体ないよね。


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