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ため息俳句80 蛇苺

 蛇苺である。
 まだ小学校に入学する以前のことだったか、蛇苺の生えている周りには、だいたい蛇が隠れているものだと、信じていた。
 誰の吹き込まれ情報であったか忘れたが、とにかく、蛇が怖かったので、この赤い実が草むらに見えたら、そこは足早に通り過ぎることにしていた。
それに、蛇苺には毒があって、つぶれた実から垂れ落ちた汁が、裸足の甲におちて、そこに大きなイボができたという話もあった。同級生が親戚のだれかに実際にあったのだと、真顔でいうので、これも恐ろしいと思った。
 蛇の好物だというが、蛇はとその毒には当たらないのか不思議であった。兄にこの疑問を話すと、兄はそりゃあそうだよ。マムシだってヤマカカシだって、あれは毒蛇だ。かまれたら子どもなんてあっという間に死んでしまう。すごい毒を持っている、その毒は蛇の体の中にあるのだから、蛇は毒に慣れていていて、ヘッチャラなんだよ。」と偉そうに教えてくれた。それを聞いて、ますます蛇も蛇苺も不気味に感じられて、一段と怖さがましたものであった。

 その蛇苺が、赤い実をたくさんつけて今、庭の隅にある。

 ここに30年余り住んでいる。こんな田舎住まいなのに蛇の出現は案外稀だ。30年年間で2,3度かしらん。でも、蛇苺の近くに出没したわけでない。爺ィになった今は、蛇苺が目障りというわけでない。ただ、放置してある。多分、この実を目当てに蛇がやってくることはなさそうだからだ。

小走りに通り抜けたり蛇苺

カン蹴りの缶転がって蛇苺

叱られて踏みつぶそうぞ蛇苺


よく見れば情事のあとか蛇苺

思ふこと誰に残して蛇苺