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一文物語 2017年集 その8

本作は、手製本「一文物語365 天」でも読むことができます。

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雨が降った日、世界は曖昧になって、雨粒と雨粒の間に夢のゲートが一瞬できるため、飛び込もうとしているが、みんなびしょ濡れになるだけだった。

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初めて大都会に出てきた彼女は、色鮮やかなガラス張りの海で、目移り激しい波に流されて溺れ、見えない手に足を引っ張られて、作り笑いをやめられない。

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工事現場の騒音をライバル視しているセミが、負けじと圧倒的多数で鳴いている。

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海底都市では、魚に広告をペイントする新しいアピール方法が始まり、地上人が魚を食べることができるのかどうか困惑している。

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彼は応援する気持ちが入ると、達磨になるのだが、自身がなにか成し遂げられていないのか、片目がなく頼りない。

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自宅にあった見覚えのない作家の自伝本を開いたら、愛する人の章に、私を忘れないで、と書かれたメッセージカードが挟まっていた。

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都度都度、エラーを知らせてくるが、それ自体がエラーだった。

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深夜の片田舎で、突如始まるタイトルのない映画上映を見ると、観客は消えていて、その映画の登場人物が増えていくという。

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お菓子の家を建てて、早速パーティーをしようと友人らを呼んだが、招待していない虫たちも行列になって押し寄せ、たちまち家は取り壊されてしまった。

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誰も寄りつかない草むらの真ん中に、鎖が巻かれた椅子があり、その周囲に人の骨が散乱していた。

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お天気が悪く、たまった洗濯物を持ってコインランドリーへ行ったら、どの洗濯機や乾燥機でもカランコロンと音がしていて、みんな硬貨を洗っている。

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食洗機から洗い終わった食器を取り出そうしたら、しっかりチョコレートでコーティングされていた。

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牢に入れられたその男は、カニが横切るのを捕まえて、進化の念を送り込むと、カニの腕が伸びて監守が持つ鍵に届いたが、ハサミの切れ味も進化していて鍵を切断してつかめず、檻の鉄柵を切ろうとしたが、カニの腕が長すぎて曲がらず、何もできなかった。

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雨は天から降り注ぐインクで、地上という紙に、恵みや癒やし、時には血の涙をこぼさせるような詩を詠んでいる。

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しきりに降る雨で彼は町中がボヤケて見えていて、傘と傘がぶつかって跳ね飛んだ雫が、存在の消えかかった彼の体を通り抜けて、持ち主の支えを失い地面を転がった傘は雨路に影を作る。

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陶器の皿や置物を売っている自動販売機があり、初めて買う人はだいたい陶器を割ってしまい、二回目からは落下口に手を差し込んでおく。

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売れないロック・ギターリストが、拍手と称賛を受けるイメージトレーニングだといって、ハトの群れに飛び込んで、いっせいに飛び上がるハトと羽音に包まれて、ギターを掲げ上げた。

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妖精は葉っぱを傘にしているが、日差しが強かったり長雨が続き、飽きつつあるので、たくさん色のある小花を傘に変えた。

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ポンコツサイズを扱う珍しい洋服店があり、歪んだ人がそれを買っていく。

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暑い夏、デート中に買ったアイスクリームは太陽に、彼の心は意中の彼女に溶け落ちた。

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連日、とても悲しい犬の遠吠えが聞こえてきて、気になって見に行くと、壁に空いた穴にすっぽりハマって抜けられずにいた。

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彼がギター一本で路上で歌っていると、ギターケースにお金は入ってこないが、野良猫ですし詰め状態になる。

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おじいさんが山へ芝刈りにいくと、迷い込こんでしまった竹林で、光った竹を切り落として生まれた子供が鬼退治に向かってすぐに、空の重箱をたずさえて年老いて帰ってきてしまった。

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本の中に閉じ込められた姫を助けにいく物語なのだが、印刷された一万部、繰り返さなければ完全に救い出すことはできない。

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彼は、まだ誰も歩いたことのない新しい道を進むと言って、開通前の舗装されたばかりのアスファルトを、足跡を残しながら歩き出した。

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その夫婦は空気が悪いからとマスクをつけているが、妻はせがまれるキスを拒むため、裏で毒ガスを撒いている。

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二日酔い用メガネをかけると、フラフラに反動補正をかけて正常に保って酔いを改善するが、実際の二日酔いが治ったことに気づかずにいると、反動補正が酔いを誘引し、酔い続けることになる。

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些細な事でイライラしてしまう女性が、自分の影でさえ気に食わず、影を剥がしにかかると、本人の輪郭が型どられた真っ白な無影の紙が吹き出し、閉じ込めていた無垢な心がどこかへ行ってしまった。

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不評で酷評されているカフェで、コーヒーにミルクを注文するだけで法外な値段をとられたあげく、カップ一杯のコーヒーとともに子牛を渡される。

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その凄惨な現場で一人、棒を持っていた彼は、いったい何をしていたのか問い詰められ、スイカ割りだと言った。

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猫の手も借りたいくらい宿題の終わっていない少年が、町の地図に猫がいた場所を目印としてその猫の手形を押して、町猫地図を作り上げ、ひとつだけは課題を終わらせることができた。

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