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5円玉の穴は暴力

静まりかえった深夜の商店街。

眼鏡屋とタピオカ屋の間の小さなスペースに『心の広さ測ります』と書かれた看板が立てかけてあった。

その横には小さな椅子が二脚、申し訳なさそうに置いてある。

何だろう、と眺めているとおじいさんがとぼとぼと足を引きずりながらやってきた。

「興味がおありかな?」

「いや・・・」と柔らかい否定の意思を示したが

「まあ、座りなさい」と言われ、僕は言葉に従って椅子に座った。

おじいさんは腰を降ろすやいなや

「太陽は見えるか」と聞いてきた。

「夜なので見えません」と僕は答えた。

「うむ」とうなずいたおじいさんは親指と人差し指で円を作ってそれを自分の目にあてた。

そして自分で作った指メガネを通して僕を見た。

何か宇宙的な危ない物質が出ているんじゃないかと思うくらい不快な気持ちになった。

耐えきれなくなって、僕が目を逸らすと

「お主、車は好きか」と言われた。

「好きでも嫌いでもありません」

僕がそう答えると

「じゃあピーマンは好きか」

と質問を続けてくる。

「そうですね」と適当に答えた。

「やはりな」

そう言ったおじいさんは少し嬉しそうだった。

質問の意図が全くわからない。

こんなので心の広さがわかるのか? 

と思っていると、僕の心を見透かしたかのように

「コーヒーは苦手じゃろ」と言ってきた。

すいません。全然見透かされてませんでした。

「コーヒーは好きです」

僕は答えた。

今は一体何の時間なんだ。かわずくんよりも意味不明なんじゃないか。と考えていると


「わかった。お主の心の広さは5円玉の穴くらいじゃ」


と言われた。





え? 





5円玉の穴? は? ものすごく小さくない? 直径数ミリですけど・・・



唐突な言葉の暴力を受け、僕は呆然とするしか無かった。


おじいさんは続けて、心を広くする方法をお節介にも教えようとしてきた。

平均はドーナッツの穴くらいだ。とか

わしはブラックホール級の人間にあった事がある。だの

どれもわけがわからないが、5円玉の穴くらいの心しか持っていないと言われた事にショックを受けた。

何でかわからないけれど、傷ついた。

いわれのない誹謗中傷だ。心に直径数ミリの穴が空いた。ような気分になった。

何でさっき会ったばかりの人にそんな事を言われないといけないのか。

怒りが湧いてきた。

冗談のつもりで言ったのかもしれないが、僕はとても不愉快だ。


確かにこんな事に腹を立てるのは、心の狭い人間なのかもしれない。


それでもおかしいじゃないか。


「あなたの心の広さは5円玉の穴くらいです」と言わた事のある人はいるだろうか。


きっといないだろう。



僕はとても腹立たしいぞ。


くそぉ



と思ったが、何も言い返せず


僕は最終的に、逃げるようにその場を去った。

 





その後、この出来事をかわずくんに話した。



「俺は初め50円玉の穴って言われたけど」

「え、そうなの? 5円玉より小さいじゃん」

「そうなの?」

「多分。それで、かわずくんはどうしたの?」

「腹立ったからさ、俺はブラックホール級だって認めさせるまで帰らなかった」

そう言えばブラックホール級の人間がどうとかって言っていたな、と思い出した。

二人の対決を想像して、少し面白くなった。

僕は笑いながら「さすがだね」と言った。

「最後はもう意地だよね。そういうわけわかんない事言ってくるやつに負けるわけにはいかないから」

かわずくんは誇らしげにそう言った。

かわずくんはやっぱりすごいな、と尊敬の念を抱いた。

そして、その姿勢を少し見習わないとな、とも思った。


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