砂粒と空きビン
ぼんやり眺めていた料理番組で。
火加減を聞かれた先生が「お鍋のお湯が微笑むくらい」と答えていた。
微笑むお鍋。いいなあそれ。微笑むお鍋のお湯。なんとなくわたしがニコニコする。
なんとか通い始めたジムの更衣室で。
ごん、と重めのものを落とした音がして、お姉さんが「わ!大丈夫ですか!?」と近くにいたおばちゃんに謝る。
おばちゃんは「大丈夫よ!それより割れたりしなかった?」と答える。
「割れてないです!お怪我はなかったですか?」
「当たってないし平気よお。割れてなくて良かったわ」
なんてことない会話だ。でもあったかい会話。
田舎のいいところってこういうところじゃないかなと思う。
横断歩道で。
もっふもふの柴犬と散歩をしているおじいちゃん。
道のど真ん中まで来た瞬間、柴犬が急に歩くのを嫌がる。
完全におすわりしてリードで綱引きを始める。
絶対に動かないという強い意志に突然目覚めた柴犬、変わりそうな信号、焦るおじいちゃん。
おじいちゃんには申し訳ないけれど、とんでもなくほっこりしてしまった。
見ていたのが車の中からで良かった。歩いていたら、吹き出したのがバレていただろうから。
とある観光地で。
タブレット端末を最近手に入れたであろう老夫婦。
旦那さんはタブレットを相当楽しみにしていたんだろう。
「これで写真撮って綺麗にしたりもできるんよ!ほら、こうやって…」
「へえ、すごいなあ、すごいわあ。あ、めっちゃ綺麗になったやん」
「な!こんなのもできるんよ、見て見て…」
奥さんはタブレットにはあまり興味がなさそうだが、旦那さんが楽しそうに話すのが楽しそうだ。
あまりじろじろ見ちゃいけないと思いつつ、ちらりと覗き見る。
ふたりとも終始ニコニコしていた。お互い、相手が楽しいことが嬉しいんだろうなあ。
相乗効果ってこういうことを言うんだろうか。
うん。やっぱり、なんでもない日常の端っこが好きだな。
なんでもないことって、作ろうとして作れるものじゃないから。
つまらないものにこそ詰まってる何かがあるのだと思う。