古語訳『一寸法師』
指より短き一寸法師《ほふし》
程無き躯《むくろ》に風雲の思ひ
御器《ごき》の舟に箸《はし》の櫂《かい》
京へ遥々《はろばろ》上りたり
京の三条の大臣《おとど》殿に
抱《かか》へられたる一寸法師
法師法師と心付き給ふ
姫の供奉《ぐぶ》で清水へ
さても帰りの清水坂に
鬼ぞ一匹出《い》で来《き》たる
立ち向かひてその口へ
法師即《すなは》ち躍り入ぬ
針の太刀をば逆手に持ちて
しくしくと腹内突けば
鬼は法師を吐き捨てて
辛く急ぎて落ち去りぬ
鬼の残したる打出の小槌《こづち》
打てば怪しき一寸法師
一打ち毎に丈《たけ》伸びて
今は麗しき大夫《ますらを》
【 原文(作詞:巌谷小波) 】
指に足りない一寸法師
小さいからだに大きな望
お椀の船に箸の櫂
京へはるばる登りゆく
京の三条の大臣殿に
抱えられたる一寸法師
法師法師とお気に入り
姫のお伴で清水へ
さても帰りの清水坂に
鬼が一匹あらわれ出でて
食ってかかればその口へ
法師たちまち躍り込む
針の太刀をば逆手に持って
チクリチクリと腹中突けば
鬼は法師をはき出して
一生懸命 逃げて行く
鬼が忘れた打出の小槌
打てば不思議や一寸法師
一打ち毎に背が伸びて
今は立派な大男
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