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悲しみという名の愛情『愛してるって言っておくね』

悲しみはモノクロで、過去の幸せは色鮮やかなものである。

穏やかなタッチのアニメーションで描かれるとある夫婦の情景は、色褪せたモノクロームに包まれている。唯一鮮やかに色づいているのは、今は亡き愛娘の痕跡だ。

夫婦は言葉を交わさない。代わりに、二人の影がその内情を映す鏡となって家中を彷徨う。

時に慰め、時に励ます二人の影の努力も虚しく、悲しみに打ちひしがれる夫婦の元に現れた娘の影。彼女は過去の思い出を両親とともに振り返りながら、その懐かしい温もりに想いを馳せる―その先に待つ大きな悲しみへと向かいながら。



銃乱射事件はアメリカではスクール・シューティングという言葉によって一般に浸透している虐殺事件の一例である。

銃社会では悲しいことにそう稀な事件ではなく、その象徴であるかのように、モノクロの回想においても校内に飾られた星条旗は目にも鮮やかな色彩を放っている
夫婦の記憶の中で鮮やかに色づいているのは娘の痕跡だけではない。銃社会であるアメリカという存在も大きな意味を持ってしまった。


タイトルの意味を知った時、この作品が「愛する人の死という絶望の後、人はどうやって人生を歩んでいけばいいのか」を私たちに語り掛けているように思う。

「前を向いて胸を張っていけ」と言うのは簡単だ。だけど難しい時は、悲しみと共に生きていくことでいい。だから、この物語は夫婦の涙で終わる。
そしてこの涙こそが、夫婦を結び付ける何よりの”娘への愛”なのだ。

”言っておくね”という響きは実に洒落ているけれど、彼女がどういう心境でこのメッセージを打ったのかを想像してみた。

"言っておく"というからには、自分に未来がないことをもう悟っているのだろう。何も言わずに消えていくくらいなら、愛する両親には精一杯の愛情だけ遺していきたいという強い想いが感じられる。

そしてこの一文は、夫婦の心を”悲しみ”という愛情によって結びつけることになる。夫婦が悲しみに心を預けるのは、それだけ娘を愛していたからであり、そして娘からの愛も知ったからだ。

物語の最後。娘の笑顔は太陽として眩しく輝き、夫婦の未来を照らしてくれる。
時間が止まった夫婦の心は、眩しい娘の思い出と彼女の最期の言葉によって、涙で動き始めるのだ。


悲しい話だから、見ていると辛い気持ちにもなるかもしれない。不幸は不平等に訪れ、時として人を狂わせることもあるのが現実だ。
ただ、悲しみがあるということはそこに確かな愛情があるということでもある。これはそんなことを思い出させてくれる素晴らしい短編映画だ。

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