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『サユリ』―生きる力

劇場版の予告が気になりすぎて、原作を即買い。

予告の時点からこんなリアルに「流れ変わったな」と思うことあんまない。気にならないわけないだろ、こんなホラー映画。


あんまりホラー漫画を読んだ経験がなかったけど、最近は色々と触れている。その中でも『サユリ』は結構異色。


前半戦は押切氏の作画の空気感をフル活用しつつ、定番の理不尽ホラーとして展開する。ホラーって肝試しに行ったり、不謹慎なことをしたりして大変な目に遭うというパターンも鉄板だけど、一方でマジの理不尽パターンもある。事故物件が舞台になる話はそれが多い。幽霊や怪異は場所を動かず、そこに運悪くやって来た人が巻き込まれるという流れになるからだ。


『サユリ』は一見そのパターンに思える。しかし(予告の時点でもう察しはつくかもだが)、実はそれだけで終わらせないのがこの作品のすごいとこ。覚醒する婆ちゃんと闇から現れる“サユリ”。貞子と伽椰子を戦わせてる場合じゃない。生きてるものがちゃんと理不尽に立ち向かうという構図が、本書を名作にしている。


特に印象的だったのは、ちゃんと飯を食ったり睡眠を取ったり日光を浴びたり…という端的に健康になることで生きる力を取り戻すという婆ちゃんの教え。当たり前だけど暗い気分の時にはなかなか出来なかったりするな…なんて自分の経験を振り返ったりもした。

確かに、色んなことに通ずる正しい教えというか、幽霊相手じゃなくても、落ち込んで塞ぎ込んでたりすると、そこに色んな隙間が出てくるのが分かる。自分では外界とシャットアウトしてるつもりでも、ネガティブなことだけはどんどん自分の中に入り込んでくる感覚。これに対するやり方をめちゃくちゃ分かりやすく誰でも実行出来る方法で提示してくれるのは、恐怖体験を提供することを目的にするホラーとは一線を画している。

ただホラー描写自体もちゃーんとお見事です。リタイアが出るのも分かる。映画版は押切氏のようなケレンのある画を作るのは難しくとも、マジでめちゃくちゃ怖そうなホラー映画ですよとちゃんと全力出してくれてる感じで期待値が大きい。

「展開を知っちゃったらつまらないかな?」と思わなくもなかったが、読了してみれば、全くその逆。これの実写映画を観たくてたまらないよ。

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