一体どれが問題だ? 痛烈な風刺コメディ『生きるべきか死ぬべきか』の魅力
※ネタバレなし
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商業のほとんどの映像作品が何かしらの媒体でデータ化されている現代だが、昔はもちろん違った。それでも時代を越えてなおその魅力を輝かせる作品がある。
『生きるべきか死ぬべきか』はヒトラー全盛の時代に製作されたコメディ映画。タイトルの通りシェイクスピアの『ハムレット』が劇中劇に出てきており、かの名台詞が作中でも非常にいいスパイスをきかせている。
しかし、この作品の魅力はタイトルだけではなく、痛烈な風刺としてのナチスの描き方とコメディという対局に思われる要素同士が見事に調理されている点にある。
映画冒頭。チャップリンの『独裁者』を思わせる滑稽なヒトラーが登場。この時点で観客は目を惹かれることだろう。
始めから風刺コメディ路線まっしぐらな気配を感じつつ鑑賞していると、ある地点から不穏な空気が漂い始める(とはいえ、結局はコメディなのでそこまで身構えなくてもよい)。
さて、ここからが作品の本領発揮だ。見事な脚本と演出に観客が騙されるターンに入る。
ストーリーは、とある劇団がナチスのスパイからポーランドを守るため、大掛かりな芝居を打ってかかるというもの。
役者の男がナチスの人間に変装して次々と水面下で作戦を遂行していくが、そう簡単にことが済むわけがなく、次から次へと色々な展開に巻き込まれていく。
素晴らしいのは、これがただ滑稽なだけなら名作のコメディになるわけがないというところ。
本格的にナチスの支配下に入るということはフィクションの皮を被せたとて全く笑えない事実である。いくら劇団が大芝居を打つ話だとしてもシリアスなムードは排除できないし、それはこの映画とて例外ではない。
だ が 。
ここで笑いと緊張のバランスを上手くとり、99分間観客を飽きさせることなく展開していくのが『生きるべきか死ぬべきか』なのだ。
これは本当にすさまじいエンタメ性で、時代背景はあれど、恐らく今からさらに100年後にわたっても通じる面白さかもしれない。
…と、言う感じでオススメしたいのだが、私のように外国人の顔の見分けがつきづらいひとは途中かなり混乱する可能性があり、台詞や行動を丁寧に拾っていく必要がある。まあそこがある程度曖昧になってしまっても脚本が上手なので、そうそう置いて行かれることもないのだが。
古い映画のテンポ感が苦手な人にこそ是非観て欲しい一作である。