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『心霊マスターテープ -EYE-』は視聴者の記憶にアクセスする

『心霊マスターテープ -EYE-』https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09R6WZTN9/ref=atv_hm_hom_c_TEdR0r_2_1


前作・前前作の感想はこちら。


※この感想はネタバレを含みます。


これまでの2作とは打って変わって様々な若い俳優のスポットがフラッシュする鮮烈なOPから始まり、POV形式はそのままにドラマを観ているような気持ちにさせられる導入。「え? 寺内さんや涼本さんはどこ行ったの?」と思うかもしれませんが、寺内さんは今回は関わっていないのでした。

最初に登場するのは心霊映像を撮っている映画監督志望の青年。しかし、彼が撮っているのはいわゆるヤラセで、幽霊もアクターである偽物。
そして今作の監督を務める谷口氏が実際に主人公に関わるプロデューサーとして作中に登場しています。が、あくまでストーリーの主人公はこの映画監督志望の青年・シンとなるため、これまでのガチ心霊映像を追いかける心霊ディレクターたちの記録とは全く毛色が異なるのが本作です。


結局、どこが怖かった?

さて、今作の全体的な印象は”生きてる人間の狂気は恐ろしいものである”という部分に都市伝説チックなオカルト要素も混ぜ込んだホラードラマという感じ。自殺した女子生徒・瞳の家族が偏ったカルト信仰をしていたために今回の心霊現象が成り立っていたことが発覚して、事件は幕引きとなります。

この心霊現象が単なる怨念から成り立っているものだったとすれば、それこそ”いじめていた人間たちの方が怖いねオチ”になると思うのですが、正直カルト信仰の要素がなかったとしても、私の視聴後の感想はそこまで変わらなかったように思います。

リアルな映像を撮る事に憑りつかれているとも言える主人公・シンと友人のツカサは、終始一貫してカメラを回す事に拘り続けますが、それがどこからくる執念なのか、はたまた本当に野心があるのか、見えづらい部分が大きかったからです。ただ、そこがある種の狙いのように思えるところも。

最初は友人が死んでもそれを利用して映像を撮るヤンチャ過ぎる人たちかと思いきや、終盤は最早何を目指しているのか、引き返せないからただ回し続けることだけを目的としているような狂った感じに見えてきます。この青年たちはただ倫理観に欠けているというより、それこそ”撮る”、”記録する”、”視る”ことに憑りつかれたまさしくタイトルのEYEを彷彿とさせる狂気を纏っているようでした。

作中で感じる大きな不安・不快・恐怖は彼等の狂気に依存している部分も少なくないため、視聴者はどちらかと言えば瞳に同情しがち。瞳の恐怖演出はそれはもう過去作品に引けを取らない恐ろしさですが、そこのロジックが兄の仕業でも怨念だったとしても、結局はシンたちの最期を見届けてしまうとどちらでも良かったのかな、と。

それはそれとして、目玉をくり抜いてシナプス繋いで空中に霊体を発生させて…とかは普通にイイよね~~~


学校でしか得られない記憶

今作はいじめのシーンがえげつないので、先述の通りあまり主人公には気持ちを寄せられません。同時に、瞳の視点から見たトイレの逆光の薄暗さ、人がいない孤独で寒々しい体育館、殺風景な放課後の渡り廊下などの風景が、ネガティブな学校の記憶として色んな人の思い出にアクセスしているのではないかと思いました。

私が思うに、ほとんどの人は学校生活って嫌な記憶を植え付けられるところでもあると思うのです。もちろん、全部ハッピーだったと思えるに越したことはないですが、そういう人も単に切り替えが上手いだけで実際は嫌なことも経験していると思います。これはいじめられたという話ではなく、学校でしか起こらない嫌なことというのが人間関係や勉学などで必ずあるものだと考えているということです。瞳のハッキングムービーのように校舎を映したネガティブな映像を見せるだけで、視聴者の「学校ってこういう時が嫌だったな」にアクセスできるのは演出の無粋で秀逸なところです。


結末の”呪いの効果”について

ラストシーンはおよそ色んな意見があると思います。雰囲気から見て自殺のように思えますが、恐らく瞳は死んでもなおシンを想っていたが故、彼の元にだけは呪いのムービーを送りませんでした。最後に彼等が訪れた廃棄物処理施設(発電所?)で撮られた映像にだけは、シンが抱き締めたミコの姿に瞳が重なっている様子が映されていたことからも明白です。

全てを終えた後。シンが谷口氏の自宅を訪れ、谷口氏のお子さんにカメラを回されると、少しだけ会話をします。

「パパのともだち?」
「じゃあカントクなんだ。かっこいいね!」

「…そんなことないよ」

『心霊マスターテープ -EYE-』(2022)より

全くピントの合わない接写映像の奥で、虚しい目をしているシン。自業自得とは言え、旧友を失い、夢だった”素晴らしい映像作品を撮る”という大きな意義とその一部であった親友すら失った青年の目は、悲しいほどに虚無を宿しています。元恋人のミコの見舞いに行った旨の発言がありましたが、一度はシンに失望し冷酷に別れを告げた彼女と、全てを失い憔悴しきった彼がもう一度寄り添うのかは何とも言えないところでしょう。

その後、シンが迷いなく道路に進み出てトラックに撥ねられる直前の映像が。瞳の呪いとは無関係と思われましたが、彼も最終的には他の犠牲者同様に命を落とすことになったと思われます。ちなみに、他の犠牲者も呪いをダイレクトに破壊したツカサを除き、自殺と思われる形で命を落としています。

元恋人のミコがシンに別れを告げる際、「死ね」と言い放ったシーンは印象的です。言葉は呪いと言いますが、彼女のこの捨て台詞がある意味で具現化したのがあの結末なのかもしれません。

一方で、少しだけ気になっているところがあります。それは第6回の冒頭で『EYE』と書かれた荷物を片手に煙草を吸う男性のシーン。男性は恐らくシンかと思われますが、左手だけ手袋をしています。

この手袋、蓮が呪いの紋章を隠すために付けていたものと似ています。「まさか…?」と一瞬頭に過ぎりはしますが、ただ単に寒いから付けていた手袋を煙草を持つ側だけ外しているとも言えるので何とも言えません。ただ、その後の谷口家のシーンでは手袋はしていませんでしたが、はっきりと手の甲までは確認出来なかったため、可能性として考えても面白いかもしれません。

本当は彼にも呪いがかかっていたのか、それとも「自分も向こうにいきたい」という思い込みから自らに呪いをかけたのか。そもそも全員思い込みで紋章が出ている可能性も徳丸さんの会話で示唆されていたので、いずれにせよ、ないまぜになった感情から道路に飛び込んだのでしょう。


役者と配役

ほとんどが存じ上げない役者さんばかりで恐縮なのですが、唯一知っていたのは蓮役の下前祐貴さんでした。

以前、『ノート』という舞台に出演された時にお初したのですが、かなり鋭い内容の舞台を若手の立場で演じるにも関わらず、エネルギッシュなお芝居をされていたのが印象的だったので名前を覚えていたのです。

ご本人は非常に爽やかなオーラを持っているのですが、『ノート』といい今作といい、結構ダウナーな役柄もイケるアグレッシブさが魅力です。


また、母の演技というのがまた注目どころでして、亮の母・正美瞳の母・はる子のリアリティとちょっとした狂気は画面の前にいるだけでクるものがあります。息子の怪死を目の当たりにして気が動転している正美の生々しさ、ニコニコ笑いながら怒っているのか泣いているのか分からないままに昔話を続けるはる子の”一見普通に見えるけどちょっとだけどこかおかしい人”の怖さ。特にはる子のシーンは、今、カメラに映っていないシンたちは一体どんな表情で話を聞いているのだろう、と自らも当事者になったかのように常に体を強張らせて見ていました。

他にも嬉しかった点として、従来のシリーズに出演した一部の心霊ディレクター(菊池さん生きててよかった)、そして前作に引き続き、オカルト系YouTuberたちが出演してくれたことは業界を盛り上げるお祭り感を生みました。個人的には都市ボーイズの早瀬さんがまさしく彼にしか担当できないポジションで登場したのが高ポイントでした。

あと配役とかではないですが、シンが煙草を吸うシーンが異常なくらい多いのは意図的なのでしょうか? 単なるキャラクター表現かもしれませんが、それにしたって吸っていないシーンの方が多い気がします。ヘビースモーカーの方は相当量吸いますし、彼も例に漏れないとは思いますが、本当に所かまわずほとんどの場面で吸っているので彼のキャラクターはビジュアル的にも強く頭に残ることになりました。


この手の作品は観ると結構不快な思いをする方も多いと思います。ホラー表現だけならわざわざ観にくる人がNGになることはないと思いますが、いじめのシーンが過激。そして、先述したように学校の思い出に負のイメージを強く抱いている人はトラウマを掘り起こされる可能性もあります。

そういった点では少し注意が必要ですが、POVホラードラマとしての完成度は高かった今作は、歴代の心霊マスターテープシリーズの新たな進化と言えるでしょう。

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