おぼんろ『ゴベリンドン』を観直して─純粋と残酷は表裏一体
大人になってからアリを踏み潰して楽しむ人はいない。爪の白さ程しかない虫にも命が宿っていることを知り、それを奪うことを躊躇うようになるからだ。
劇団おぼんろ。板の上という概念を捨て、ハコという空間を縦横無尽に駆け回り、360度全てを物語にしてしまう美しい劇団(コロナ禍より形態の変更アリ)。
私が初めてこの劇団と出会ったのは、第12回公演の『ゴベリンドン』。DVDが手に入ったので、見返しながら当時の気持ちを思い出す。
ゴベリンドンという怪物と、とある兄弟の物語。きらきらしたおとぎ話ではなく、そこに含まれた群像はとても残酷で人間らしく、そして純粋をはらんでいる。
おぼんろの作風全体に言えること。“人は誰かのためならどこまでも残酷になれてしまう”というメッセージ。
こんなこと身に覚えがない筈なのに、何故かナイフのように私たちの心に突き刺さる。「人のためなんて綺麗事だ」と言う人もいるが、結末も過程もある程度の残酷を秘めているのを知っても同じことが言えるだろうか。
美しい音楽。幻想的な舞台美術。何より残酷で、そして純粋なキャラクター。その結末を観て何を感じるかは人それぞれだが、いつだって最後は美しいのがおぼんろ流。
いきなりDVDを観ろとは言えないが、また夏ごろに新作公演がある。
投げ銭でもいいから、一度“体験”してみて欲しい。これは観劇ではなく、“体験”だ。