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企業は自由に廃業できるかー会社解散と解雇法理の適否ー

経営が苦しくなり人件費の削減が必要となった場合、企業は整理解雇を検討することになります。
しかしながら、整理解雇には①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③人員選定の妥当性、④手続の適切性の4要素を満たす必要があります。
それでは、企業が解散する場合、解雇にはどのような規制が及ぶか。
今回は、そのような問題を考える事例として龍生自動車事件(東京地裁令和3年10月28日判決・労働判例1263号16頁)を取り上げます。

事案の概要

本事例は、タクシー会社である被告会社が、業績悪化を理由として原告を解雇した後、事業を休止し、解散をしたという状況下において原告が解雇無効地位確認及び未払賃金請求をしたというものです。
裁判所は解雇を有効と認めて原告の請求を棄却しました。

裁判所が認定した事実

今回裁判所が認定した事実は以下のとおりです。

  1. 被告会社の令和2年4月1日から同月30日までの営業収入は391万7940円

  2. 被告会社が令和2年4月に従業員に支払った賃金合計額は510万4753円

  3. 令和2年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の発出

  4. 令和2年4月15日、被告会社、原告を含む全ての従業員に解雇の意思表示

  5. 令和2年5月14日、被告会社、事業譲渡の交渉を行うも成就しないことが確定

  6. 令和2年5月21日、被告会社、関東運輸局長及び東京運輸支局長に対し一般旅客自動車運送事業を休止する旨届け出る

  7. 令和2年6月2日、被告会社、株主総会の決議により解散し、清算手続が開始

  8. 令和3年2月4日、被告会社、事業廃止届を関東運輸局長及び東京運輸支局長に対し、事業廃止届を提出

  9. 令和3年3月31日、被告会社、同事業を廃止

判決の要約

裁判所は以下のとおり述べて原告の請求を棄却しました。

  1. 上記の事実経過によると、被告会社は解雇予告期間中に事業譲渡が実現しない限り解散することを決定していたものと推認される。そのため、原告への解雇も解散に伴うものと認められる。

  2. 解散は会社が自由に決定すべき事柄であり、会社が解散されれば、労働者の雇用を継続する基盤が存在しない。そのため、解散に伴って解雇される場合には整理解雇法理は用いられない。

  3. もっとも、①手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われたものと評価される場合や、②解雇の原因となった解散が仮装されたもの、又は既存の従業員を排除するなど不当な目的でなされたものと評価される場合は、解雇は無効になるというべき

  4. 被告会社の運送収入は平成27年以降5期連続で減少。営業損益も5期連続で赤字。これに伴い、平成27年度期末には4275万円だった現預金も、平成31・令和元年度の期末時点では2788万円に減少。純資産も、平成27年度末時点で約2788万円だったものが令和2年6月2日時点で120万円の債務超過という状況。この状況では、被告会社の経営状況は悪化が進んでいた。

  5. しかも、緊急事態宣言により被告会社のタクシー事業には大幅に減少。その結果、営業収入の全額をもっても賃金額に満たない状況に陥っていた。このような状況では被告会社が事業継続が不可能であると判断したことに特段不自然・不合理な点はない。

  6. 被告会社は原告に対して事業廃止及び解雇の必要性・合理性についての説明をしたわけではない。しかしながら、被告会社の解散は緊急事態宣言の発出に伴う営業収入の急激な減少が契機であり、そのような事態を事前に予見することは困難。そのため、情報提供はそもそも困難。

  7. 被告会社は、解雇予告期間中、過半数組合や原告の所属する組合と団体交渉を行い、具体的な数値を記載した資料や説明文書を示して解雇に至った理由を説明している。また、組合からの資料提供依頼や質問事項や要求事項にも回答し、解雇の効力発生日にも団体交渉をしている。

  8. 加えて、被告会社は退職合意した従業員に2万円から4万円の特別退職慰労金を支給。解雇の対象となった原告らにも令和2年5月分の給与とともに、一律1万円を解散・事業廃止に伴う解雇手当金として支給することを申し出る。

  9. 被告会社は雇用調整助成金を使っていないが、同助成金は事業継続を断念した事業主において従業員が再就職するまでの雇用を確保する目的で利用することが当然に想定されていると解されないから、当該措置をとらなかったからといって解雇が手続的配慮を欠いたことにはならない。

  10. 以上から、本件の解雇は①手続的配慮を欠いたとはいえない。したがって、原告に対する解雇は有効。

判決に対するコメント

会社の目的は営利を追求であり、利益の追求とは収益から費用を差し引いた利益を株主に分配しつつ、余剰分を投資にまわして成長していくことです。
そのため、利益が出る見込みが立たない場合、会社は会社としての存在意義を失うことになります。そのような場合、会社が自らの判断で解散することはやむを得ないところです。
他方、雇用がそもそも企業として継続していくための手段です。そのため、企業継続の見込みが立たない廃業・解散の場合には雇用の前提を欠くことから、基本的には解雇となってしまうこともまたやむを得ないところです。

しかしながら、この「会社解散の場合には解雇は原則有効」という基準を悪用して解雇目的に会社解散を偽装するというケースが散見されます。
その場合には、会社は事業継続を企図しているわけなので解雇は無効となります。
このように、会社が解散するからといって絶対に解雇が有効というわけでもありません。
そうすると、どのような場合に会社解散でも解雇が無効となり得るのか、その基準が問題となります。

この問題について、本事例の裁判所は、偽装解散の場合に加えて「手続的配慮を著しく欠いた」場合には解雇が無効になり得ると示しました。
この点について、会社が真実解散する場合には企業活動の継続という雇用の前提がなくなるところ、手続的配慮の有無でその前提が復活するわけではありません。そのため、手続的配慮を解雇無効の判断要素に加えることに全く疑問がないわけではありません。

しかしながら、手続的配慮の有無を真実解散であるか否かの重要な判断要素と位置づけるのであれば、今回の裁判所の判断方法は妥当なもののように思われます。
もっとも、今回の事例では被告会社側が平成27年時点から事業廃止・会社解散までの間、ある程度とはいえ労働組合に会社の財務・経営状況を開示していたことが時系列に沿って認定されています。
裁判所にとっては、今回の被告会社の対応が誠実であると認定されたことが、結論に影響したように思われました。
なお、本事例では雇用調整助成金を活用しなかった点について、会社の事業継続の見込みがないことを理由に問題視していませんが、整理解雇の場合には同助成金の活用が解雇回避努力義務の考慮要素となり得ることには留意しておく必要があります(センバ流通(仮処分)事件仙台地決・令和2年8月21日労働判例1236号63頁)。

最後に

以上、龍生自動車事件を取り上げました。
今回のケースは、原告側敗訴ではあるものの、会社解散の場合であって全く自由に労働者を解雇できるわけではないことを示しました。
このことからも分かるとおり、廃業には創業や事業承継とは別の法的問題が潜んでおり、やはり専門家が積極的に関与することが必要だと感じさせられます。
また、今回のケースからは、ある程度ではあっても早期の段階で経営状況を労使間で共有しておくことが労使双方にとって有益であることが学べます。
仮に事業廃止・会社解散ではなく整理解雇を選択する場合でも適正手続は重要な判断要素のひとつとなっていますし、もっと前向きな話をすれば、労使間で情報を共有できていることで経営改善の知恵と苦労を分かち合うということもできるようになります。
今回の裁判例は、そのような労使間の情報共有のあり方を考えさせられる点で有益だったと感じました。

今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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