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Nancy Wilson / Cannonball Adderly Quintet (1962)

本作はあまりジャズの入門として紹介されることもディスクガイドに掲載されることもないアルバムですが(個人的な意見ですが大名盤よりこういう少しマイナーなアルバムの方が聴きやすいものが多いように思います)ボーカルとインストが交互に並べられた構成、長すぎない演奏時間(特にアドリブ)、聴きやすいサウンドとジャズの初心者向きでない点が全くない入門盤におすすめな一枚です。主役のナンシーウィルソンは元々R&Bシンガーだったためかクセのない聴きやすい歌い方をします。この時レコードデビューして1年目の新人でそのデビューには新人の才能を見抜くことに長けたキャノンボールが関わっているという話もありますがナンシー本人はほとんど脚色だと言っていて実際のところは分かりません。キャノンボールはこの後すぐに長年在籍したリヴァーサイドから本作のリリース元のキャピタルに移籍します。

メンバー
ナンシーウィルソン:ボーカル
キャノンボールアダレイ:アルトサックス
ナットアダレイ:コルネット
ジョーザヴィヌル:ピアノ
サムジョーンズ:ベース
ルイスヘイズ:ドラム

Save Your Love For Me
ゆったりとした演奏と堂々としたボーカルが印象的なバラードナンバー。ジョーの端正で美しいピアノやナットのマイルスデイヴィスのようなミュートコルネットが印象的です。

Teaneck
ナットのオリジナル。キャノンボールのグループらしいおおらかでファンキーな演奏がかっこいいです。ソロはキャノンボールの豪快なアルト、ナットの兄に負けないくらい豪快なコルネット、ジョーの丁寧なタッチのピアノの順番です。

Never Will I Marry
兄弟2人の息の合ったホーンプレイが印象的なボーカルナンバー。ソロはキャノンボールだけです

I Can’t Get Started
キャノンボールの力強くも穏やかなサックスプレイが美しいバラードナンバー。この曲のみナットがいないワンホーンのカルテット編成での演奏です。

The Old Country
ナットのオリジナルで60年に吹き込んだものを歌詞をつけて再録。美しいピアノソロから始まる曲です。ジョーザヴィヌルというとマーシーやウェザーリポート中期以降のファンキーなプレイやマイルスやウェザー初期の前衛的なプレイの印象が強いですがこう言ったオーソドックスなアコースティックピアノを使った美しいプレイも上手いミュージシャンだったりします。

One Man’s Dream
ジョーとキャノンボールのグループにいたドラム奏者スペックスライトの共作。ファンキーなホーンリフとドラミングがかっこいい曲。キレキレのアドリブ(キャノンボール→ナット)が圧巻です。この曲でも息のあったホーンプレイが聴けますがここまで息のあったプレイは滅多に聴けない気がします。兄弟故の強みでしょうか

Happy Talk
アップテンポのリズミカルで楽しい曲。インストでは思い切り演奏し、伴奏ではボーカルの邪魔にならないような控えめの演奏に徹する。とても器用なバンドです。

Never Say Yes
ナットのオリジナル。この曲のナットはマイルスが乗り移ったかのようにミュートコルネットでキレキレの演奏をしています。兄の影に隠れがちなナットですが兄に負けず劣らず器用な人です(作曲の才能は兄以上だと思います)キャノンボールもマイルスのようなプレイに刺激されたのかキレキレのアドリブを弾き、ジョーも2人に負けないくらいいいソロを弾いています。

(I’m Afraid) The Masquerade Is Over
ピアノトリオをバックにしたしっとりとしたバラードナンバー。ただベースの影が薄いです。このアルバムに限らないですがキャノンボールのバンドはベースをあまり重視していないのか音が小さくソロも短い気がします。

Unit 7
サムのオリジナルでアルバムによってはCannon’s Themeという名前にもなっています。一時期ライブの時は必ずこの曲を演奏でメンバーを紹介しつつソロを回していました慣れた曲だからかラフなノリで長いソロを回しています(この曲のみ5分越えです)このキャノンボールのソロに生で聴きたかったと思わずにはいられません。

A Sleepin’ Bee
ノビノビとしたナンシーの歌が印象的なボーカルナンバー。影の薄いサムのベースがよく聞こえます。下手じゃないのになんでソロを取らせてもらえないのだろうと思わずにはいられません。この曲の作詞はトルーマンカポーティらしいですが作家のあの人なのか同性同名の人なのかちょっと気になります。