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永 武 作品展「胸さわぎ」

みぞえ画廊 福岡店では、8月17日(土)~9月1日(日)まで、
永武(えい たけし)作品展「胸さわぎ」を開催いたしました。
今回は、実に7年ぶりの個展でした。

会場はみぞえ画廊福岡店 新館

7年ぶりの個展。そのわけは・・・。

というのも永先生は、大分県豊後高田市にある西叡山高山寺の天井画
「花曼荼羅」の制作にご専念なさっていました。こちらは、製作期間3年、構想段階から数えると丸5年という歳月をかけた、大仕事でした。

天井画 一の間「宇宙の誕生」
天井画 二の間「宇宙生命の成長」
天井画 三の間「命の惑星の誕生」

個展には、天井画の原画とサンプルをお持ちいただき、展示しました。

上が天井画サンプル、下が原画です。

天井画は、一の間、二の間、三の間からなり、宇宙のはじまりから地球の誕生というテーマで描かれました。
45×45cmの杉板256枚にテンペラで描かれた、宇宙をバックに
四季折々の花が咲き乱れている、とても幻想的で美しい天井画です。
機会がございましたら、ぜひご覧ください。
(西叡山高山寺 WEBサイト)

テンペラで描く理由

「テンペラ」とは、油彩よりもその歴史は古く、中世(12世紀頃)よりある技法です。卵などを固着剤とし、それに顔料を混ぜて絵具を作り、描かれた作品が「テンペラ画」です。
油絵具の登場により衰退しましたが、テンペラ画の最大の特徴は、退色やひび割れなど、経年による劣化が少ない、ということ。
中世やルネサンス期の絵画が今でも美しいまま鑑賞できるのは、この技法により制作されているからです。

寺院の天井画ですから、先生は100年、200年残ることを想定してテンペラで描かれました。
また、制作中にコロナ禍となり、二の間の天井画に、原画にはない「アマビエ」が描かれているのがお分かりでしょうか。
100年後の人々はこの天井画を見て、2020年のパンデミックになにを思うか。永先生は様々な思いをこめて、2022年に天井画を完成させました。

人生に余生は無い

本来、この個展は天井画の完成後、2023年に開催予定でした。
しかし2023年、先生はご病気を患い入院、手術を受けられました。
このときほど強く「生」と「死」、「画家としての人生」を考えられたことはなかったそうで、この先、残された時間を使って、何を表現したいのか、どういう作品を作りたいのか・・・深く悩まれたそうです。
(今ではすっかりお元気です!)

「桜の木の下で」 テンペラ・油彩  屏風絵 二曲一隻

美しく咲いた桜の花の下には、白骨化した鳥の死骸が横たわっています。
まるで鳥の命を糧に桜が花を咲かせているよう。
これは、先生が実際に見られた光景を題材に描かれたそうですが、
まさに生と死は表裏一体、輪廻転生を感じさせます。

「next stage」 テンペラ・油彩 板

向日葵を描いた作品。花弁は散り、葉も萼も干からびており、触れるとカサカサと音がしそうなほどです。種子も描かれておらず、落ちた後かもしれません。この向日葵は次世代へ命をつなぎ役割は終わっています。しかしなおも太陽に顔を向け直立しているさまに、心を揺さぶられます。

「なが~い一日」 テンペラ・油彩 板

こちらは、先述の術後2日目、いちばん体調がつらかった時の顔を写真に収め、後日作品にしたものです。
自画像の胸部にはご自身の心臓の写真を描き、その上の文字や図は、主治医が病状の説明をするために書かれたものを拡大してトレースしています。
作品の上部には入院中のメモや手慰みに描かれたイラストが。食事で出されたお茶の紙コップにまで描き込まれています。病床にあっても絵を描くことをやめられない絵描きの魂を見せられているような・・・壮絶すぎて言葉になりません。
メモの中に、印象に残る言葉がありましたので、そちらをご紹介します。

「人生に余生は無い」

人物画・オブジェの新作

永先生といえば人物画ですが、今回の個展でも新作が発表されました。

「陽だまりの片隅」 テンペラ・油彩 パネル
「山越の舟に乗って」 テンペラ・油彩 パネル
「風の舌」 テンペラ・油彩 板
左「ひとひらの旋律が舞い降りた」 中央「夜の蝉の声」 右「背中を押す風」

先生の描く人物には共通点があり、子供のような青年のような、男性のような女性のような、年頃も性別もよくわからない、なんとなくうつろな瞳をした人たちが描かれています。
特にモデルはおらず、先生のその時々の心情を人物画に込めているそうです。世界各地で起こる不穏な出来事のことを考えると、どうしてもこういう表情になってしまう、とおっしゃっていました。
ほとんどの作品は、テンペラと油彩の混合技法で描かれています。
背景の部分をテンペラで塗った後、乾ききる前に水で一旦流すと、
複雑な模様が浮き出てきます。その上に油彩で色を重ねていきます。
絵具の薄いところは背景の色がぼんやりと透けて、どこかアンニュイな
表情の人物とシンクロする、唯一無二の人物画です。

また、オブジェも多数展示されました。

オブジェの数々
「海の番人」
「夜会」松ぼっくりに赤い糸をまとわせ、ドレスのようです。
「渚のドレス」 フジツボがフリルのよう
「ポルトの遺物」 野焼きのマスクです。プリミティブ!

野焼きで作られた造形物に、廃材や漂流物を組み合わせて、
オブジェを制作されています。
野焼きとは、たき火で粘土を焼く、縄文式や弥生式の土器と同じ手法です。
最後まで完成形が見えず、思いもかけない焼き上がりになったりもするそうですが、その偶然性が楽しい、とおっしゃっていました。

パンデミックや病気は、できれば体験したくないことです。
とくにアーティストとしては、行動を制限されることは非常に
つらいことだったのでは、と推察されます。
しかし永先生はそれすらも糧に、観る者に「胸さわぎ」を起こさせる、新たな表現の扉を開こうとされています。
まさに、「人生に余生は無い。」です。

次回、永武展は、来年2025年2月にみぞえ画廊東京店で
開催される予定です。
さらに新しい永先生の世界、どうぞご期待ください。

次は東京で!






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