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ふるさと納税って不公平?よくある誤解

2022年にふるさと納税をしっかりと活用しようと思い立ち、色々と調べてみました。調べていく中で、どうもふるさと納税の制度が誤解されているのではないか、不当に批判されているのではないかというケースが散見されました。そのあたりを整理します。

この記事を読んでも「ふるさと納税をお得に活用!」みたいな情報は手に入りません。ただ、後半の方で地元自治体に対してふるさと納税を活用する方法は説明しています。

本記事はあくまでも納税者の立場として調べた内容を整理するに過ぎませんので、内容が必ずしも正確ではない可能性があります。その点はご了承ください。もし間違いがあったらコメントなどで指摘いただけるとありがたいです。

Note: ふるさと納税の対象は市区町村だけではなく、都道府県に対しても行うことができます。しかしその総額は市区町村よりもかなり小さく、ふるさと納税の総額に占める割合はわずか1.3%程度です(令和三年度)。そのため、ここでは都道府県に対するふるさと納税は考慮せずに話をすすめます。
cf. 令和3年度受入額の実績等

参考にした情報

基本的に、2023年1月時点で総務省が公開している情報に基づいて書いています。

そもそも、ふるさと納税とは

ふるさと納税そのものを解説するのはこの記事の主旨ではないのですが、記事の大前提となるいくつかのポイントはここで整理しておきます。

ふるさと納税の制度の意義

これは総務省のサイトから引用するのが早いでしょう。

第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。
それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。
それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。
それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。

総務省 ふるさと納税ポータル

ふるさと納税のお金の流れ

ふるさと納税は納税者が地方自治体に寄附を行い、その寄附額の一部を翌年に納める税金から控除されるものです。この控除は所得税、都道府県民税、市区町村民税から、それぞれ決まった割合で行われます。この割合は、納税者の所得税率、及びその居住地の都道府県と市区町村での住民税の按分によって決定されます。大まかに以下の流れで計算されます。

  • 寄附額のうち所得税率に相当する割合を国の所得税から控除される

  • 残りの寄附額は住民税から控除される

  • 住民税の控除のうち、実質的に40%は都道府県民税からの控除に相当し残りの60%が市区町村民税からの控除に相当する

  • ただし、政令指定都市の場合は都道府県民税から20%、市区町村民税から80%に相当する控除となる

つまりおおまかに見ると、あなたの寄附は寄附先の自治体に入り、その分あなたの納税額(所得税および住民税)は減り、それを国、居住地の都道府県、居住地の市区町村がそれぞれ応じた割合で補填する、という流れになっています。特にここで注目したいのが、市区町村の負担となるのは寄附額の一部だけである点です。これは後ほどの議論での重要なポイントとなります。

ふるさと納税の手続きの流れ

ふるさと納税の寄附は専門業者や航空会社など様々な主体が運営するふるさと納税のポータルサイトなどから行うことができます。また、自治体へ直接寄附金を納めることも可能です。

控除を受けるには翌年に確定申告を行って寄附額を申告するか、特定の条件を満たす場合はより手間の少ないワンストップ特例制度を利用します。これらの手続きにより国から所得税の一部が還付され(もしくは納付額が減免され)、さらに月々支払う住民税の額が小さくなります。

ワンストップ特例制度の落とし穴

ワンストップ特例制度は確定申告よりも手間のかからない手続きですが、これを使った場合は国の所得税からの控除が効かなくなります。その分は居住地の住民税(都道府県民税と市区町村民税)から控除されるため、地元の自治体の歳入減少幅は大きくなります。このあたりを気にされる方は、ワンストップ特例制度ではなく確定申告を行って所得税の控除を受けましょう。ふるさと納税だけであれば大した手間にはならないはずです。

さまざまな誤解

ふるさと納税について調べていくなかで、ふるさと納税の制度そのものやその利用者に対する批判も目にしました。しかし、調べていくとその中には誤解に基づくもの、制度を局所的にしか見ていない不正確なものといった、問題があるものも多数ありました。その代表的ないくつかを取り上げます。

誤解:「税金がタダになるんでしょ?」「ふるさと納税を使ってる人はタダで行政サービスを使っていて不公平」

当初はぼくも同じように思って、ふるさと納税の利用を躊躇していました。しかしこれは、実際に使ってみると一発でわかる誤解です。どう頑張っても税金がタダになんてなりません。残念ですが。
ふるさと納税によって控除できる住民税は、その20%程度が上限です。残りの80%は依然として納税しますし、加えて所得税ももちろん納付する必要があります。ふるさと納税をどれだけ活用しても、行政サービスにタダ乗りなんてできません。皆さん相応に納税した上で行政サービスを利用しています。

注意したいのは、ふるさと納税の控除枠の範囲内であれば "寄附のほぼ全額が控除されます。これが曲解されて「ふるさと納税は "税金のほぼ全額が控除される」と誤解されている可能性があります。しかし実際には控除される金額には上限があり、税金全額が控除されるなんてことにはなりません。専門家がこんな間違いをするなんてありえないと思うのですが、誤りなのか意図的なのか、専門家の肩書でこういう曲解を行っている記事などもあるので注意が必要です。応益性について触れていたりしたので、絶対にわかった上で書いていると思うんですけどね。悪質。

誤解:「ふるさと納税は高所得者(高額納税者)が優遇されていて不公平」

これは確かにもっともらしい説です。納税額が大きくなると、ふるさと納税の控除限度額は増えます。ふるさと納税の活用だけを考えると、確かに高額納税者のほうがより多くの寄附ができ、結果としてより多くの返礼品を受け取ることができる、と言えるかもしれません。

ただし、これが優遇に当たるのかというと、まったくそうは言えません
まず、ふるさと納税の返礼品の価値は寄附額の30%以内と定められているため、ある返礼品を受け取るためには実質上市価の三倍以上に相当する寄附を行う必要があります。
また、ふるさと納税は納税額と連動して控除限度額が増加する仕組みになっているため、ふるさと納税の控除限度額が大きくなるということはつまり、同時に納税額も増加するということです。ふるさと納税の一部が所得税の累進課税制に連動しているため、所得が一定程度増えると所得税から控除できる割合そのものは増加します。それでも結局は控除限度額の増加以上に納税額が増加することになります。

つまり、高額納税者はより多くの税金を納めた上に、返礼品についても市価よりはるかに割高な額を納める必要があります。それって優遇でもなんでもないですよね。仮に「希望者には100万円分のふるさと納税枠をプレゼントします。相当する住民税、所得税も納めてもらいます」となったとして、手を挙げる人はいないでしょう。より多くの税金を納めた上に、割高なマーケットの利用枠が増えても何も嬉しいことはありません。

特に、高所得者の優遇が居住地の歳入減の文脈で触れられている場合はミスリーディングであるケースがほとんどです。累進課税制により控除限度額の割合が増加するのはすべて所得税による負担分で、市区町村民税による負担割合は一定のままです。高所得者は控除枠の絶対額は確かに大きくなりますが、それは納税額自体が増えているからにほかなりません。これを指して高所得者が市区町村の歳入減にさらなる悪影響を与えているというのはミスリーディングです。むしろ、一定の寄附額に占める負担割合を考えると、逆に高額納税者のほうが市区町村の歳入に対する影響は小さくなります。たとえば所得税率40%の人と10%の人が同じ10,000円の寄附を行ったとします。所得税率が高い人のほうが国による負担割合は大きく、反対に所得税率が低い人は住民税による補填が相対的に大きくなるので、市区町村の負担分は前者で3,600円なのに対して後者は5,400円にもなります。同じ10,000円でも所得税率が低い人のほうが居住地の歳入減に大きなインパクトを与えます。

この高所得者優遇の誤解は専門家の肩書で書かれた記事などでも目にしたし、いろいろなところで多く言及されている誤解の一つでした。ぼく自身、確かに所得が多い人はたくさん寄附できるだろうしな、と単純に納得しかけました。こういうもっともらしい誤解は広まりやすくて厄介なので、これはきっちりと指摘し続けていきたいところです。

基本的にはそれぞれの所得に応じてふるさと納税の控除限度額が決まるだけで、そこに所得による優遇措置は盛り込まれていません。所得による優遇が存在しないということは、逆に言えば、納税者であれば誰でも同じく利用できる公平な制度と言えるでしょう。

誤解:「ふるさと納税の全額分、居住地の歳入が減る」

これもよく見かける誤解ですが、ふるさと納税の寄附分は国の所得税、都道府県民税、市区町村民税で按分されて負担されます。域内の住民が行った寄附の全額分がその市区町村の歳入から減らされるわけではありません。寄附者の所得税率や居住地の住民税の按分割合によって変化しますが、市区町村が負担するのは寄附額の30%から75%程度となる計算です。

誤解:「地元自治体にはふるさと納税できない」

居住地の自治体にふるさと納税することは可能です。ただし、2019年の通達によりこの場合は返礼品を受け取ることができなくなりました。この「返礼品がない」ということを「ふるさと納税ができない」と誤解されているケースをよく見かけます。返礼品を目的としなければ、居住地の自治体へのふるさと納税は問題なく可能です。後述しますが、居住地の市区町村へのふるさと納税は返礼品以外のメリットが存在するので、十分に検討に値する手段です。

ただし、自治体によってはポータルサイト経由では居住者からの寄附を受け付けていない場合もあるようです。そのケースにあたった場合は都道府県、市区町村に問い合わせて直接寄附できる窓口を確認してみてください。

誤解?:「ふるさと納税は市区町村の間で税収の奪い合いになっている」

確かにその側面はあります。住民が居住地外の自治体にふるさと納税を行うと、そのうちの一部は居住地の自治体の歳入減となります。反対に、その居住地の自治体に域外から流入する寄附金もあります。こういった流出入を「奪い合い」とする表現は確かに部分的には正しいと言えるのですが、制度全体を見ると必ずしもそれだけではありません。

マクロに見ると、寄附金額の総額は一旦市区町村の歳入増となり、それに相当する控除金額のうち寄附者の所得税率や住民税の配分から決まる一定の割合は国の所得税と都道府県民税から負担されることになります。市区町村民税から負担するのはふるさと納税の総額の一部です。つまり、ふるさと納税全体の額が増えればそれだけ市区町村全体の歳入は増えるということになります。

実際に令和元年度の統計によると、ふるさと納税による寄附の全国計4,320億円に対して、都道府県民税からの控除が1,075億円、市区町村民税からの控除が2,048億円となっています。引用の資料にはありませんが、差し引きの1,197億円程度は所得税からの控除と考えることができます(寄附と控除の調査期間の差による誤差、2,000円分の自己負担分など、細かな相違はあり)。つまり都道府県民税の1,075億円と所得税の1,197億円、寄附総額のおよそ半分程度に相当する金額が市区町村の歳入増となっていることになります。
cf. 第20表 令和元年度寄附金税額控除に関する調
(少し古い統計を参照しているのは、新型コロナウィルス感染症による申告猶予措置の影響を除くため)

このように、制度が健全に運用されている限りは、ふるさと納税の流出入全体が大きくなることは市区町村にとってもメリットがあることです。その分、国や都道府県の歳入が減ってはいますが、制度の目的と照らせばこれは、地方への財源移転による地方創生のための施策の一部と捉えることができます。

誤解?:「ふるさと納税で減収になる自治体があるから不公平」

これは実際に減収となった自治体が存在して、そういった地域から見ると不公平に見える状況かもしれません。しかしこれこそまさに、ふるさと納税という制度が生まれた背景と密接に関わる点であり、税収の移転だけを見ていては制度の本質を見誤ります。
cf. ふるさと納税の理念

ふるさと納税の背景にはそもそも、都市部と地方との人口流出入の問題があります。地方の行政サービスを受けて育った人が進学や就職などで都市部に移ると、それまで行政サービスを受けたその地方の税収には貢献できずに都市部に納税することになります。ここは地方交付税によって一定程度手当がなされている部分ではありますが、その上でさらに納税者の意思も反映して税収の移転を行う制度が、ふるさと納税です。

実際、ふるさと納税で歳入減となって話題になったいくつかの都市部の自治体の人口動態を調べてみると、近年は転入超過(他地域からの人口流入のほうが流出よりも多い状況)が続いていることがわかります。全国的に人口が縮小フェーズに入っている状況においてもなお、他地域の行政サービスを受けて育った人を納税者として取り込んでいる、ひいては税収にもプラスのインパクトを受けている地域となります。またこれら地域のふるさと納税による歳入減の数字だけを見ると大きく感じますが、こうした都市部の自治体は個人住民税以外の税収も多くある傾向にあり、ふるさと納税による税収減が歳入全体に占める割合を見ればそれほど大きくはありません。

こうした、地域間の人口流出入の不均衡が背景にある制度に対して、ふるさと納税による財源流出入の不均衡だけを問題とすることこそ不公平な態度であるとも言えます。不交付団体であってもふるさと納税による減収の一部は交付税相当の仕組みで補填するなど、制度上の調整はあっても良いかもしれませんが、一部の自治体が減収になっていることをもって制度の不備とするのは当たらないでしょう。制度が想定通りに機能している結果に過ぎません。

ふるさと納税を地元自治体に活用する

活用方法:ふるさと納税を活用して居住地の市区町村の歳入を増やすことができる

居住地の市区町村に寄附を行っても、差し引きゼロになるように思われるかもしれません。しかしこれまで書いてきたとおり、ふるさと納税は所得税と住民税(都道府県民税、市区町村民税)から税額控除を受けることができる制度です。このことをうまく活用すると、あなたが納める国の所得税および都道府県民税に相当する分を、居住地の市区町村に引っ張ってくることができます。

  • 居住地の市区町村に返礼品なしの寄附を行う

  • ワンストップ特例制度を使わない

  • オプション:可能であればポータルサイトを使わずに直接寄附を行う

こうすることで、あなたの寄附は全額がその市区町村の歳入になります。そして、寄附の控除は国の所得税から 5% - 44%、その残りの 40%(政令指定都市の場合は20%)が都道府県民税から負担され、地元市区町村が負担する控除額は残りの差分です。つまり差し引きで、国と都道府県の負担分はそのまま地元市区町村の歳入増となります。あなたが普通に納税する以上の金額が、ふるさと納税を行うことで地元市区町村に入ることになるのです。

ふるさと納税による地元自治体の歳入減を気にされる方は、むしろふるさと納税の制度を有効活用して地元の歳入増に貢献するのがいいのではないでしょうか。

活用方法:居住地に対する納税額の減少を相殺する

これは先程述べたことの応用になりますが、域外へのふるさと納税により減った分のあなたの納税額を、居住地の市区町村への寄附による歳入増加で実質的に相殺することが可能です。居住地の市区町村に寄附を行うことで、実質的に国や都道府県から税収を移転させることができることは前のセクションで説明しました。その分と、あなたの域外への寄附による歳入減分とをバランスさせると、差し引きで居住地の市区町村に対するあなたの納税額の増減を実質的にゼロにすることが可能です。念の為、「増減」がゼロです。「納税額」がゼロではない点、留意ください。

実際に納税額の増加と減少とをバランスさせるための寄附割合(居住地の市区町村への寄附 : 域外への寄附)は、納税者の所得税率および、都道府県と市区町村の住民税負担割合によって異なります。例えば、所得税率が10%で政令指定都市以外(市区町村民税率6%)に住んでいる場合は、域外への寄附額の1.2倍程度の寄附を地元の市区町村に行うことで、地元自治体の歳入の増減を実質的に相殺できます。その他個々のケースでの値は実際に適用される税率に基づいて各自計算いただくとして、全体としては域外への寄附額の0.5倍から3倍程度のレンジで居住地の市区町村に寄附を行えば、相殺が可能となります。

繰り返しになりますが、その分国と都道府県の税収が減少します。これは制度の意義である地方創生のための財源移転と捉えることができます。

活用方法:ふるさと納税を活用して地元自治体の予算に直接関与できる

ふるさと納税を行う際、ほとんどの自治体で寄附金の使途を選ぶことができます。これは居住地の市区町村に寄附を行う際も同様です。この仕組を利用すると実質上、納付する住民税の一部に対して使途を指定することができることになります。自治体が提供する行政サービスは多岐にわたりますが、その中でも自分やその世代にとってより関心が高い分野があるケースもあるかと思います(介護福祉、子育て支援など)。もしそうした分野が寄附金の使途として用意されていれば、実質的に納税額の一部をその分野に充てるよう明示的に選択することができます。これは下手をすると地方議会選挙などよりもよほど直接的に予算に関与できるまたとない機会です。

もちろん、住民税の全額をふるさと納税に充てて使途指定する、といったことはできません。ふるさと納税可能枠のすべてを居住地の市区町村に寄附したとしてもせいぜい住民税の20%程度で、依然として残り80%程度の住民税は自治体おまかせの一般歳入となります。納税額の一部を自分にとって望ましい使途に充てたとしても、それ以外の行政サービスに当たる分もきちんと負担することになります。さらに先程書いた理由から、居住地へのふるさと納税はむしろ歳入全体を押し上げる効果すらあります。指定した使途以外の行政サービスだからと利用を躊躇する理由はありません。ふるさと納税で使途指定を行ったからといって批判されるいわれはありませんので、行政サービスは積極的に活用しましょう。

最後に

以上、ふるさと納税にまつわる誤解と、いくつかふるさと納税の活用方法を述べました。ぼくの興味のつながりとしては記事の構成とは順番が逆で、当初は地元自治体に対して使途指定のふるさと納税を、控除限度額一杯までフル活用しようと思ったのがきっかけでした。色々と調べて制度を理解していくうちに、あちこちでおかしな事が書かれている様子が見えてきて、そのあたり調べてまとめたのが今回の記事です。
あくまでもイチ納税者の立場からまとめたに過ぎず、誤りもあるかと思うので、ご指摘いただけるとありがたいです。
また、ぼく自身もふるさと納税は完全無欠の制度だとは思ってはいないし、改善すべき部分もあると考えています。それでも、批判は誤解に基づいてなされては価値がないし、むしろ悪影響を及ぼすと考えています。今後も自分なりにきちんと調べつつ、制度は制度で十分に活用できればと思っています。

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