2023年ビール大手各社事業方針 勝手分析

2023年の国内ビール大手4社の事業方針が発表になりましたね。昨年は怠けましたが、今年はまとめてみようかなと思います。一応は数字にも触れますが、個人的には取組の内容のほうに興味があり、そちらに重きを置くつもりです。

一昨年の分はこちら。

国内ビール大手4社のニュースリリース

各社のニュースリリースを発表順に挙げます。

2022年の振り返り

市場全体の数字

2022年のビール類全体(発泡酒、新ジャンル含む)の市場は、アサヒビールが「3%程度伸長」、サントリーが「対前年102%程度と推定」、キリンビールが「前年比102%程度」としています。伸び幅は大きくはありませんが、ビール類全体が対前年で増加するのは久しぶりのことです。ここ3年の新型コロナウィルス感染症による落ち込みがあったあとの伸長なので単純に喜べる数字ではないでしょうが、回復の兆しがあることは良いニュースです。
キリンビールはビールに限った市場全体の数量にも言及していて「前年比114%程度」としています。先ほどの2-3%程度の伸長という数字は数量ベースなので、その中でもビールが14%程度の伸びであるならば、金額ベースの市場はもう少し大きく伸びたということになりそうです。ビール類の酒税の段階的一本化に向けて、各社ともビールへのシフトを視野に取り組んでいる中でしょうから、これも好ましい傾向といえるでしょう。

各社の2022年の数字

こちらもニュースリリースの発表順に。

まずはアサヒビールはビール類全体で前年比110.1%という数字です。アサヒビールは金額ベースで発表しているので、先ほどの数量ベースでのマーケット全体の伸びとは単純には比較できませんが、2022当初に発表された目標が111.8%だったことと比較するとなかなか良さそうですね。それでも新型コロナウィルス感染症の流行前の2019年(6,660億円)と比べると、まだ 89% 程度までの回復に留まります。

サッポロビールはビール類全体が対前年で103.2%とのことなので、ほぼ市場並みの数字ということになりそうです。ただ、目標に対しては94%程度にとどまるので、悪くはないものの良いとも言えない数字なのかなと思われます。

サントリーはビール類全体(ノンアルコールを除く)が対前年105%で、市場よりも少し上回る伸びだったようです。目標が対前年104%だったので、こちらもクリアしていて好調だったようす。

キリンビールはビール類計が対前年98%と振るわず、4社の中で唯一下げました。目標を対前年106.6%と設定していた事も併せて、数字としてはあまり良かったとは言えません。

まとめると、マーケット全体としては微増、アサヒビールが大きく伸長、反対にキリンビールが凹み、サッポロビールとサントリーが市場並み、という状況だったようです。

各社の2022年についてのコメントからピックアップ

網羅的ではありませんが、いくつか気になったものをピックアップします。

4社中3社が触れていたのが、飲食店需要の回復です。「業務用市場の回復(アサヒビール)」「行動制限が緩和されたことで業務用酒類市場は回復傾向を示し(サッポロビール)」「飲食店での消費回復(キリンビール)」と書かれています。ここ2年の状況が状況だったので、まだまだ回復の途上ではあるとは思いますが、少なくとも数字が上向き始めていることは良い傾向です。

新型コロナウィルス感染症の影響についてもネガティブな言及は減るか、もしくは全く言及がありませんでした。「新型コロナウィルスの影響は引き続き残りましたが(サッポロビール)」「「ウィズコロナ」での新たな生活様式が徐々に定着し(キリンビール)」。その他2社は言及ありません。昨年は需要も回復傾向にあったこと、また新型コロナウィルス感染症の流行開始から3年も経つので、新型コロナウィルス感染症はもうあくまでも所与の条件として扱われている印象です。

その他には、サッポロビールのリリースより、新ジャンルからRTDという流れとともに、新ジャンルからビールという流れもしっかりと定着しつつあるのは良い傾向ですね。RTD の市場規模が新ジャンルを超えたとのことなので、これからますます新ジャンルからビールへのシフトも重要になってくるでしょう。RTS = Ready To Serve という新しいカテゴリの今後の動向も気になるところです。

2023年の取り組み

各社の2023年の数字

各社、数字の出し方がカテゴリごとやブランドごとなど様々ですが、やはり大きく見てビールはプラス、新ジャンルはマイナスを見込んでいます。これはここ最近の傾向でもありますが、今年は特に、秋に予定されている酒税の税額変更を織り込んだ数字だろうと考えられます。新ジャンルが発泡酒と同額までおよそ9円(350ml缶換算)増税、反対にビールが6.7円(同)減税となり、併せて税額の差が16円近く縮まるため、新ジャンルの価格優位性が薄れることになります。アサヒビールとサッポロビールは商品構成に占める新ジャンルの割合は相対的にそれほど大きくありません。しかし、サントリーは金麦、キリンビールは本麒麟という、新ジャンルのカテゴリに強いブランドを抱えていることもあり、この2社はビールよりも新ジャンルのほうが構成比率が大きくなっています。そのため、市場のビールシフトへの対応には、新ジャンル自体に価格優位性の低下をカバーする訴求ポイントを作れるか、併せて新ジャンルで築いたブランドの強みを生かしてビールブランドへいかに橋渡ししていけるかなど、他2社とはまた違った難しい舵取りになるかと思います。

アサヒビールの2023年の取り組み

アサヒビールの2023年の取り組みは、基本的にはこれまで行ってきたことの継続になるようです。新しい商品名も、新しく始める取り組みも、言及を見つけられませんでした。デザイン缶や新容量の話だけではさすがにちょっと寂しいですね。

サッポロビールの2023年の取り組み

個人的には、サッポロビールの2023年の取り組みが4社の中で一番ワクワクしました。

YEBISU BREWERY TOKYO と CREATIVE BREW
東京恵比寿のヱビスビール記念館がリニューアルして、小規模醸造設備を備えた YEBISU BREWERY TOKYO として2023年末にオープンするそうです。どのようなラインナップになるのか、どのような提供方法になるのか、消費者の巻き込みのあたりは何かあるのかなど、とても楽しみな取り組みです。設備はやっぱり YEBISU の名を冠するんですね。場所としても経緯としても順当ではあるのですが、作るビールの幅が YEBISU の名前によって狭まらないかだけ気になるところです。
また、YEBISU BREWERY TOKYO に携わる醸造家の方による新しい商品ラインが登場するようで、こちらも楽しみです。

新たな幸せ時間を提案する、独創的な新ライン「CREATIVE BREW」第1弾「ヱビス ニューオリジン」期間限定で発売

NIPPON HOP シリーズ
「当社がこれまで開発したホップ品種による国産ホップ100%のビール「NIPPON HOP」シリーズを発売」とのことです。詳細はまだ出ていませんが、シリーズとのことなので複数のホップ品種が取り上げられるのではないかと期待したいですね。以前発売されたフラノマジカル、フラノブラン、フラノローザあたりは今回も発売されるでしょうか。
日本産希少フレーバーホップ商品のプレミアム体験開催
個人的にはフラノマジカルが香りも特徴的でとても美味しかったので、またフラノマジカルが飲めたら嬉しいです。
「ビール文化の発展と継承」というテーマに、原材料からアプローチできるのはさすがサッポロビールです。

サッポロ 酔わないCRAFT
国内大手のノンアルコールビールテイスト市場に、久しぶりに新しい取り組みが登場します。IPAタイプのノンアルコールビールとのことです。国内外のクラフトブルワリーまで目を広げると、低アルコールやノンアルコールでホップのフレーバーが効いたビールも最近は出てきていますが、大手が取り組むことでより手に入りやすいジャンルとして定着して行けるでしょうか。ドライバーとしてアルコールが飲めないケースもあるので個人的にも期待したいジャンルです。

サントリーの2023年の取り組み

サントリーもアサヒビール同様、あまり新しい取り組みは書かれていませんでした。一つだけ気になったものを。

ジャパニーズエール
「ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール」をリニューアルして「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉香るエール」と名称変更するそうです。

個性を楽しめる“ジャパニーズエール” 新「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉香るエール」発売

この「ジャパニーズ」という語について、国産原材料などの話なのかなと気になったのですが、実際は「日本人の嗜好に合う“フルーティな味わいと爽やかな香り”」「日本人の繊細な嗜好に合わせた」ということのようです。日本人の繊細な嗜好、というのはビールに限れば国内市場がピルスナー一辺倒でここまで来てしまったことの弊害に過ぎないように思いますし、現在のビール市場はむしろ多様化していく流れなのかなと感じていたのですが、果たして。

キリンビールの2023年の取り組み

キリンビールの事業方針は昨年からかなり薄味になってしまっていて、読むワクワクが減ってちょっとさみしいんですが、二点ほど。

「人と人とのつながり」をビールのおいしさを通じて
「コロナ禍で希薄になってしまった今だからこそ、「人と人とのつながり」をビールのおいしさを通じて」と書かれています。ビールは人をつなげるお酒だということは、ぼくもほんと色々なタイミングで感じることなので、このフレーズにはとても共感します。形を変えつつではあるでしょうが、ビールを誰かと楽しむ場が以前のように戻ってくることを願います。

クラフトブルワリーの品質支援
キリンビール自身が作るビールとは別に、クラフトブルワリーに対する品質面での支援について言及がありました。キリンビールはこれまでも東北魂ビールプロジェクトフレッシュホップフェストなど、国内のクラフトブルワリーと共に取り組むプロジェクトの一環として、クラフトブルワリーの製品をキリンビールの工場や研究所で分析し、その結果をフィードバックして品質向上へとつなげる取り組みを行っています。今年もそれを継続、もしくは拡大していく方針のようです。期待したいです。

おわり

以上、国内大手ビール4社の2023年事業方針からいくつかトピックをピックアップしました。今年もおいしいビールを楽しめる一年になりますように!


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