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『LYFESTYLE』──Yeatが描く制御不能なエネルギーと進化【新譜レビュー】
ポートランド出身のラッパー、Yeatの音楽帝国は着実に拡大を続けている。2018年のデビューEP『Deep Blue $trips』以降、DrakeやEarl Sweatshirtといった大物からの支持を得て頭角を現し、Geffen Recordsと契約するまでの軌跡は、彼の揺るぎない才能の証といえる。今年2月にリリースされたアルバム『2093』では、エレクトロ・インダストリアルな要素を取り入れた新たな音楽性に挑戦したが、この斬新なスタイルはファンの間で賛否を呼んだ。5枚目のアルバムとなる『Lyfestyle』では、彼のアイコニックなレイジビートとトラップが中心に据えられ、轟音が支配する構成となっている。
主要プロデューサーにはSyntheticを起用。アルバム全体のサウンドとクリエイティブな方向性に非常に重要な役割を果たしている。過去のプロジェクトでは複数のプロデューサーが関与していたが、今回はほとんどのトラックをSyntheticが手掛け、その関係性はより深まっている。前作『2093』では彼の役割は限られていたものの、『Lyfestyle』ではYeatのシグネチャーサウンドをさらに洗練し、ハイエナジーかつ未来的なビートを提供することで、Yeatの進化を支えている。
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制作の裏側では、約5,000ものビートが候補として集められ、その中からSyntheticが厳選するという徹底的なプロセスが取られた。完成に至らないビートは、20人のプロデューサー集団Hologramの手によって仕上げられるか、時にはYeat自身が微調整を加えることもある。この入念な制作工程からは、サウンドへの強いこだわりが浮かび上がってくる。一方でYeatのレコーディングスタイルは極めて直感的だ。完成したトラックに追加の編集を一切加えないという彼のポリシーは、「一度完成したらもう手を加えない」という言葉からも明らかだ。
『Lyfestyle』の本質は、そのアートワークにも色濃く反映されている。燃え盛る家屋と駆け回る馬たち、廃車に残された落書き——これらが描き出すカオスと破壊のビジュアルは、"制御不能なエネルギー"を表現している。その中心にYeatは支配者のように佇み、反抗的で無秩序な世界観を強調する。この強烈なイメージが予告する激しさは、実際の楽曲でも存分に表現されている。
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オープニングを飾る「Geek Timë」は、"ギークモード全開"を高らかに宣言する一曲であり、独特の緊張感が漂う。重低音のドラムと歪んだシンセが絶妙に絡み合い、シンプルでありながら緻密に構成されたビートがリスナーを一気にYeatの音楽世界へ引き込む。「STFU」では、2 Low Keyの「Test My Nutz」をサンプリングし、メンフィススタイルのエッセンスを加えることで、ストリートの荒々しさとレイジ要素が共存する独特のテイストを生み出している。
「NEW HIGH」ではDon Toliverが参加し、サイケデリックなトラップビートと滑らかなボーカルが共鳴する一曲に仕上がっている。浮遊感あふれるサウンドが二人の異なる個性を引き立て、異質な存在が交わる瞬間の高揚感が際立つ。「ORCHESTRATË」はアルバムのハイライトとも言える一曲で、ヘッドホン越しに音が空間を圧迫するように広がり、まるでリスナーをその場に固定するような没入感を与える。
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タイトル曲「LYFESTYLE」では、Lil Durkとのスリリングな掛け合いが躍動感を生み出し、楽曲全体をさらにアグレッシブなものにしている。Kodak Blackをフィーチャーした「Bë Quiet」は、彼の尖った個性がビートに独特の色を添え、「とにかくリッチであること」を誇示するリリックが展開される印象的な一曲。「FOREVER AGAIN」は、ミニマルなサウンドで展開される静謐な一曲。アルバムの激しい流れの中で、束の間の安らぎを与えている。
「Eliminatë」では「地図もライトもいらない」と語り、確固たる自己の立ち位置を示す。「Go2Work」にはSummrsが参加し、「俺が本物のキングYeat、お前はついてこれない、早く立ち去れ」という自信に満ちたリリックが響く。ハイパートラップのビートに乗せて、支配者としての存在感が全体に広がり、自己顕示欲が鮮烈に刻まれている。
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現在、『LYFESTYLE』はBillboard 200で初の1位が期待されている。今年2月にリリースされた『2093』は初週70,000ユニットを売り上げ、2位にランクインした。今作は初週85,000ユニット超えが見込まれ、彼のキャリアにおける最大のセールスとなるだろう。ボーナストラック付きのサイン入りCDやデジタルデラックス版など、多様なフィジカルアイテムでコアなファンの期待に応えていることも、この成功を後押ししている。
DJ Akademiksによると、Yeatのファンベースは他のアーティストのファンよりも"熱狂的"だという。そんなファンを魅了するように、本作は22曲、1時間にも及ぶ圧倒的な情報量と冗長さを備え、それがむしろYeatの世界観に没入させる要素として機能している。『Lyfestyle』はストリーミング世代におけるヒップホップの革新を象徴する作品であり、Yeatが自身の音楽的境地をさらに押し広げた一作となっている。
I was told once.. YEAT has the fanbase who listens to his songs the MOST. So say every artist got 1000 fans. 1000 YEAT fans will play his songs more than 1000 fans of any other artist. Thats a loyal fan base right there. Most YEAT fans supposedly listen to majority solely YEAT.
— DJ Akademiks (@Akademiks) October 19, 2024
『LYFESTYLE』 個人的スコア: 7.0/10