「パリのおばあさんの物語」 〜岸惠子さん翻訳の絵本〜
今日は、大好きな岸惠子さん翻訳の絵本の紹介です。
最近、少しずつではあるが、絵本を手にとるようになった。
子供はいないので、子供向けや、読み聞かせのための絵本は、ない。
あくまでもオトナである私が手に取って読んでみて、
心が揺さぶられるストーリーとビジュアルであることが、
私の絵本の選択ポイント。ストーリーに惹かれても、
手元に置いておきたいと思うビジュアルでなければ、サラッと手放す。
逆に、眺めているだけで優しい気持ちになれるイラストの本は
話にストーリーがなくてもいい。眺めていれば幸せになれるのだから。
手元に残っているのは、水彩画のようなタッチの柔らかいイラストのものが多い。
飛び出す絵本のような楽しい仕掛けのあるものも好きだ。
絵本のベストセラーになっているような本は、ほとんどない。
こんな独断に満ち満ちた選択だが、愛着を感じている絵本でもあるので、
少しずつ紹介していきたいと思う。
その第1号は、岸惠子さん翻訳の絵本「パリのおばあさんの物語」だ。
岸惠子さんへの憧れ
岸惠子。言わずと知れた昭和の大女優。
銀幕のスターと呼ばれて日本中を席巻していた時代は
リアルタイムでは経験していないので、どれだけ凄かったのかはよく知らない。
初めて意識したのは、初の自叙伝エッセーの文庫本を読んだときだった。驚いた。日本を代表する女優が、突然フランス人の映画監督と結婚してフランスに移住。お相手は由緒正しい貴族のようなお屋敷にお住まいの医者で映画監督でもある知識人。フランス語の特訓から館の切り盛り、子育て、突然の別れ、その後のジャーナリストとしての活躍、等々、この人の好奇心と度胸としなやかさには驚くばかりだった。しかも、文章表現が「文豪」なのだ。ドドイツ調だったり韻を踏んだ表現は古典か?と思うほどで、THE 文学少女だったのだろうと思う。
その岸惠子さんが翻訳したというフランス語版の絵本。子供でも読めるが、大人が楽しむ絵本だ。著者は米国生まれだがフランス在住で、フランス語で児童書・小説などを執筆しているスージー・モルゲンステルヌ。イラストはフランス生まれ、NY在住のセルジュ・ブロック。
おばあさんが歩んできた道
物語はおばあさんがパリの朝市で買い物をするシーンから始まる。
年齢を重ねて、できなくなってしまったことが増えてきた。忘れ物が多く、皮膚にはシワが深く刻まれ、髪もどんどん白くなっていく。でもそれは、自分の人生の苦楽の証で、鏡をのぞいて「なんて美しいの」とつぶやいたりする。
今の自分を見て、ちょっとハッとする。口紅やファンデーション、きれいな服。をきれいに見せる演出の方法と効果をしっかり理解しているから何だろう。パリジェンヌとしてパリの街を歩いていた頃のおばあさんは、スッと背筋が伸びてカッコよかったんだろうな。。。
今は一人暮らしのおばあさん。たまに孫が遊びに来る。おやつを作ってあげたりして、人に喜んでもらうことで幸せを感じる。でもひとりきりに戻ると、不安に怯える時もある。
おばあさんは戦争経験者。若い頃、ユダヤ人の夫がナチスに捕まったり、子供を守るために修道院に預けたり。辛いこともたくさん経験してきた。
おばあさんは、自分にも若いときはあったのよ、という。
「もういちど若くなって見たいと思いませんか?」という問いに対する答えが素晴らしくて震えた。
私自身も日々刻々と時を重ねているわけで、日々何千何万もの小さな選択の上に自分自身がいる。どこかで何か、たったひとつでも違う選択をしていたら、今ここにはいなかったんだろうな、なんて考えることが増えた。
余談だが、昔々TVCFで、こんなコピーがあった。
どなたかこれを覚えている人がいたら、ぜひ教えてください!
さて、話をパリのおばあさんに戻す。
全ての人にいずれ訪れる老い。サイエンスやテクノロジーの進化で「老い」の概念が変わることはあるかもしれないが、それは生態系の破壊につながる気がして、私自身は老いに抗うつもりはない。だって、そうやって新陳代謝を繰り返すことで、生き物は変化に対応し、いのちを繋いできた。世代が変わることでしか乗り越えられない変化ってあると思うのだ。
私個人としては、このおばあさんのように、老いと孤独の覚悟と爽やかでしなやかな生き方ができれば最高だ。
そして、やっぱり岸惠子さん、本当にカッコいい生き方をされているな、
とますます憧れるのである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?