【シロクマ文芸部】冬の夜に
冬の夜は空気がキンと冷えて、星や月がより輝きを増す。そんな夜空を見上げながら美奈子は駐車場までゆっくり歩く。車の中もキンと冷えていて、身震いしながらエンジンを掛けエアコンの温度と風量を上げてみる。
今日の夕飯を何にしようか考えていると、FMからクリスマスソングが流れてくる。若い頃から散々聴いていて、今でも定番の曲だ。曲を聴いた美奈子は改めてクリスマスが近い事を知る。美奈子の子供達は社会人でクリスマスは遊びに行くため家にはいないだろう。今年も夫と二人きりのクリスマスになるのだろうか。
若い頃は友人とちょっとしたパーティをしたり、食事に行ったり、恋人とクリスマスを過したりもした。結婚して、子供達が小さい頃はご馳走を作りケーキを囲んでクリスマスを祝っていた。それが子供達の成長と共にクリスマスは祝わなくなっていった。
美奈子にとってクリスマスは普段となんら変わらない日になってしまった。
クリスマスソングが終わると、次に流れてきたのは美奈子が昔から大好きなバラードだった。車のエンジンを掛けたまま発進する事もせず、ただただ曲に聴き入った。美奈子の目からは思わず涙が溢れてきた。
子供達も無事に成長して社会人になった。
夫とも普通に暮らしている。
双方の親も今のところは元気にしている。
私は不幸じゃないし、幸せなのだろう。
ロマンティックな事はないけど、やりたい事はたくさんある。
仕事だってある。
何となく閉塞感を感じるのは、自分の考え方ひとつなのかもしれない。
曲を聴きながら、いろいろな考えが頭をよぎる。涙は次々と溢れ出て、美奈子のショートダウンに水玉模様を作った。
曲が終わると美奈子はすっきりした表情で顔を上げた。ライトを付け、シフトレバーをDに入れゆっくりと車を発進させた。夕飯は鍋にする事にして、クリスマスは夫と自分のためにちょっとしたご馳走を作ってみようかと考えていた。
冬の夜空は美奈子の車と行く道を優し気に照らしている。
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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「冬の夜」です。
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪