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短編小説「PENGUIN-sideW-」

「忘れなきゃいけない」そう思えば思うほど思い出してしまう。決して結ばれてはいけない恋。なんで出会ってしまったんだろう彼と…

大学のキャンパスでその人を見かけたのは単なる偶然だった。何かを探すようにキョロキョロしては、しばらく歩き肩を落とす。その様子が面白くて暫く人間観察してしまった。
…何だか面白い。笑いそうになるのを抑えながら、道案内を申し出た。
私の声に吃驚した彼を見て私はこらえ切れず笑ってしまった。彼は緊張した様子で『案内お願いします』と言った。
道案内しながら、彼と話をした。どうやら岩槻教授のご子息らしい。楽しい時間はあっという間にすぎ、目的地に到着し深々と頭をさげる彼を見送った。
これって人助けになるのかなぁ。とにかく満ち足りた気分でその日を終えた。

うちは生まれた時から母子家庭だ。母に父親の事を何度も聞いたが毎回はぐらかされてしまう。でも、お金だけは父親からちゃんと支払われているらしい。おかげで不自由なく育ったからまぁいいか。

あの挙動不審な彼のことが数日経つのに気になってしまう。
…もう会うこともないのに。
そう思っていたら、数日後に私達は再会した。運命の出会いって皆こんなあっさりなの?ロマンチックさがなさ過ぎる神様に呆れながら、それでも私達は気がつくと色々な場所に出かけるようになっていた。

ある日、大学から戻ると珍しく母が家に居て、誰かと話している。
リビングに向かう廊下に差し掛かった時母に呼ばれた。リビングに入ると母と男性が座っていた。
「この子よ」そう言って母が私を指差し、男は「いやぁ、君に似て美人に育ったね」と言った。何が何だかわからず呆然と立ち尽くす私に母が「あなたの父親よ」と言った。
私はこの男を見たことがある。服装が違うからわからなかったけどこの人は岩槻教授だ。面識はないが学園では知らない人はいない有名人。私は動揺を隠し、冷静に「岩槻教授ですよね、うちの大学の」と言った。
男は「あぁ、そうか。君はうちの大学に通っていたんだね。」そう言って優しそうな笑みを浮かべた。
母に「ごめん、今日体調が良くないんだ。部屋で休むね。」と言い部屋に戻った。

その夜、私はショックのあまり一睡もせず泣き続けた。神様は残酷だ。こんな酷いイタズラをするなんて…

愛し始めた人は、私の腹違いの兄だった…

その事実が日を増すごとに大きくなっていった。それと同時に彼への想いも膨らんでいく。「会いたい…でも」自問自答を繰り返しながらも誘いに応じて会いに行く。
帰り道になると、これが最後かもしれない。兄なんて認めたくない!色々な感情が入り混じり涙が溢れた。

数回そんなことを繰り返したある日。
彼は理由も聞かず、別れを切り出してくれた。

そして最後の日…
『誰も許してくれないなら、一緒に逃げよう』
そう言って、私は彼の前で泣いた。
僕は私を悲しませたくなくて精一杯の笑顔で『南極なら君と僕とペンギン。悪くないね』っと茶化すように言った。そうでもしないと2人とも泣き崩れていたに違いない。二人の最後の強がりだった…

つらい別れから3年。
今でも時々あの日々を思い出している。
そして繰り返し思うのは、
最後のあの日、本当に彼がこの現実から連れ出してくれれば良かったのにってことと「お兄ちゃん」とは一生呼びたくないってこと、そして心から愛していたということ。

悲しいけど、思い出すたびちょっと笑顔になる。彼との日々は最高に楽しかったから。

🌸あとがき
槇原敬之さんの『PENGUIN』という曲に発想を得て書きました。これは女性目線での物語。男性目線とあわせて楽しんで頂けると幸いです。





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