短編小説「PENGUIN-sideM-」
いつものように高速を飛ばして、ここに来た。赤と白、お目出度い市松模様のコンビナートが見える。変わらないこの景色。前と違うのは、"1人で来た"ということだけ。
たったそれだけだ...
僕の父親は大学教授。外づらがよく女子大生に人気だといつも家で自慢する。
母親は自分で起業し、家に帰ることはほとんどない。
そんな2人は僕が8歳の時に離婚した。
ある時、お金だけは持っている父親から
「養育費を受けとって来て」という母からの命令で僕は父親の勤める大学に向かった。
父親の親族が経営する大学は敷地が広く僕は迷子になった。
「よろしければ案内しましょうか?」
突然後ろから可愛いらしい女の子の声が聞こえた。
驚いた僕をその子はクスクスと笑った。
「…はい、案内お願いします!」
緊張した様子で答える僕に彼女は笑顔で
「はい」
と答えた。
彼女の案内で無事に父親の元にたどり着いた僕は帰りにお礼を言おうと思ったが、その日彼女を見つけることはできなかった。
そこからしばらく、僕は大学の図書館に立ち寄ることを言い訳にして彼女の大学に通い再会を待った。
通い続けて5日目、あっさりと彼女と再会。
お礼にお茶に誘ったことをきっかけに僕らはドライブや食事を楽しむ関係になっていった…
高速道路を使い、赤と白のコンビナートを通り過ぎて彼女が好きな海へドライブする。
高速道路の料金所が近づくと君は膝の上に大事に抱えた僕の財布からきっちり1090円を出す。毎回料金所は君の担当だった。
ある日、いつものようにドライブを楽しんでいると彼女が急に悲しそうな顔になり泣き出した。理由を聞いても『なんでもない』の一点張りだった。
…それは、その日だけで終わらなかった。
毎回、海からの帰り道で君は泣いた。
そんな事が続いた5回目のドライブで僕らは"もう会わない"と決めた。
理由はわからないけど、僕といる事で君に悲しい顔をさせるのが辛かった。
そして最後の日…
『誰も許してくれないなら、一緒に逃げよう』
そう言って、君は僕の前で泣いた。
僕は君を悲しませたくなくて精一杯の笑顔で『南極なら君と僕とペンギン。悪くないね』
と茶化すように言った。そうでもしないと2人とも泣き崩れていたに違いない。
僕の最後の強がりだった…
つらい別れから3年。
今でも時々あの日々を思い出している。
そして繰り返し思うのは、
今もわからない"誰も許してくれない"理由と
最後のあの日、衝動に任せて連れ出さなくてよかったって事とそして愛していたのもホントだったということ。
悲しいけど、思い出すたびちょっと笑顔に
なるんだ。
君との日々は最高に楽しかったから。
🌸あとがき
槇原敬之さんの『PENGUIN』という曲から発想を得た小説です✍
👱♂️男性目線のsideM
👱🏻♀️女性目線のsideW
単体でも楽しめますし、両方読んでも違った角度から楽しめるよう考えて作りました。
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