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Global Business Trend vol.7 | 今、アメリカで何が起きているのか。企業メッセージにも具体的なアクションが求められる時代に

混沌とするアメリカ。

ミネソタ州の黒人男性、ジョージ・フロイド氏が白人警察官によって首を押さえつけられ殺害された事件で、抗議活動「#BlackLivesMatter(黒人の命を守れ)」がアメリカ全土に拡大し、黒人差別に反対する人々が各地でデモを行っている。

一部デモが暴走する中、私が直近で住んでいたマンハッタン・チェルシー地区の高級ブティックはベニヤ板を貼り、窃盗や窓ガラスの破損、落書きへの対策をしている。ニューヨークの門限は夜8時になり、緊張感は増す。この状況を目にしながら思い出したのは数年前、アメフト選手のコリン・キャパーニックが同じく「#BlackLivesMatter」を訴えるために、国旗掲揚・国歌斉唱の際に起立拒否をして膝まずくムーブメントを生み出した時のことだ。トランプ大統領ら保守派の反感を買い、結果的にNFLはこの行為を全面的に禁止。キャパーニック選手は、2017年に「サンフランシスコ・フォーティナイナーズ(San Francisco 49ers)」との契約を早期終了して以来フリーエージェントとなり、現在までどのチームとも契約に至っていない。皮肉なことに、キャパーニック選手が生み出したこの「ひざまずく」行為は、警官がフロイド氏を殺害した時の行為と一緒だった。音楽や文化、そしてムーブメントの象徴まで、黒人が生み出すのものは、全て白人に搾取されてしまうのか・・・。黒人が奴隷としてアメリカに連れて来られてから400年以上も差別に遭い続け、コロナウィルスは黒人コミュニティに猛威を奮い、白人女性がセントラルパークで黒人男性を脅迫する事件が起き、人々の我慢が限界に達していた矢先に起きた事件だった。

「沈黙することは、共犯と同じ」:黙示が許されなくなった企業ブランドたち

キャパーニック選手の一件が起きた時、「ナイキ」は彼をスローガン“Just Do it”の30周年キャンペーンに起用。キャパーニック選手のモノクロ顔写真に「何かを信じろ。たとえそれが全てを犠牲にするとしても(Believe in something, even if it means sacrificing everything)」というメッセージを載せたが、これを国への反発と捉えた保守派は不買運動や、「ナイキ」の商品を燃やしてSNSに投稿し、“Just Do it”を文字った「#Justburnit」や「#Boycottnike」といったハッシュタグも広がった。

今回のジョージ・フロイド氏の事件では、キャパーニック選手の時に増して、より多くの企業が人種差別に対する警告メッセージを発信しているように感じる。NIKEは、"For Once, Don't Do It"という自分のスローガンを文字ったパワフルなメッセージを発表。そのキャンペーンに対し、本来はライバルであるadidasも賛同を示し、adidasがNIkeの投稿をリツイートNetflixやTwitter、HBO、大手銀行のCitigroupも#BlackLivesMatterをプッシュしている。歴史上、企業がソーシャルムーブメントに対してメッセージを発信するようになったのは、最近のことかもしれない。昨年ニューヨークで開催され、50周年を迎えたLGBTQのパレード(今年はキャンセル)では、ディズニー、マスターカード、ターゲット、ハイアット、モルガン・スタンレー、野村証券などなど、名だたる企業がスポンサー をし、パレードカーも走らせていた。沈黙していること自体が問題を軽視し、助長していると捉えられることが多い今、企業が「口を出さない」という選択肢は無くなっているのかもしれない。

一方で、企業がメッセージを発信しても、ブランドの好感度を上げるためだけなのか、それとも本当にアクションを起こそうと思っているのか、わからなくなり消費者の不信感を仰ぐものも多い。例えばNIKEは、キャンペーン自体は素晴らしいし、メッセージ性の先駆者ではあるが、会社のトップである役職・Vice Presidentの353人のうち、黒人が占めるのはたったの10%という数字もある。また、化粧品会社のロレアルは、「発言することには、価値がある」というメッセージをBlack Lives Matterへのサポート表明として発表。しかし、以前ロレアルに起用されていたモデルが、「ロレアルに対して人種差別を勧告したが聞き入れてもらえなかった。ロレアルは偽善者だ。」とインスタグラムに投稿し、物議を醸した。ブランドは、メッセージをただ発信するのではなく、アクションへの一貫性が証明できないと、消費者からの信頼を得ることはできない。

個人的にとても良いメッセージを発信していると思ったのは、アイスクリームメーカーのBen and Jerry'sと、玩具メーカーMGA Entertainmentから出ている人形、Bratzだ。(Bratzは私が小さい頃から「カッコかわいい」有色人種の人形をいくつも出している)

Ben and Jerry'sは、「#BlackLivesMatterを支援する」で終わらせるのではなく、彼らがブランドとして何を伝えたいのか、どんなアクションを起こしたいのか、具体的な思索がしっかりとわかりやすく、ページをまたぎ書かれている。トランプ大統領や議会への訴え、フロイド氏の遺族への支援声明もわかりやすい。Bratzは、このシンプルなインスタグラム投稿で、自分たちの世界観を守りながらポイントをストレートに訴求しているし、フロイド氏の支援を促す署名を呼びかけている。リンクもアカウントに貼ってあるため、これを見た人が次に起こすべきアクションが明確だ。

企業が「発信するだけ」の時代は終わった

今までは、「発信」をすること自体に重みがあったが、フェイクニュースなど嘘の情報が溢れる世の中で、より一層真実を伝え行動に繋げ、一貫性を持つことが、企業にも求められている。例えば、パンテーン主導で動き昨年日本で話題になった「この髪どうしてダメですか」キャンペーンは、ブランドがただ「地毛の黒染め指導をやめてください」と呼びかけるのではなく、実際に署名を集め、東京都教育委員会に提出された。このように、ただメッセージを発信するだけではなく、実際にアクションを起こしているかどうかで、今後企業のブランドメッセージへの評価は大きく変わる。

個人へのアクションも求められる

先日インスタグラム上では、黒い四角を#blackouttuesday というハッシュタグと共に投稿し、Black Lives Matterへのサポートを証明するトレンドが注目を浴びている。(注:必ず、#blackouttuesdayのハッシュタグを付けること。その他ハッシュタグはデモに関する重要な情報発信に使うため、使ってはいけない)

もはや個人アカウントでも、今は自分のセルフィーや活動のプロモーション、日々の報告などを載せることは「空気が読めない」と取られてしまう。また、黙っていることは差別を黙認していると思われるため、個人としても今起きている問題への発言を求められる流れができている。この#blackouttuesdayというトレンドは、元々音楽業界で働く2人の女性が「#BlackLivesMatter(黒人の命を守れ)」ムーブメントへ敬意を払う手法として、火曜日を「商業活動を中止し、ムーブメントをサポートするための活動を行う日」と位置付け、それによって利益の変動を見ることでどれだけ音楽業界に黒人のインパクトがあるかを証明するのが目的だった(アメリカで、音楽業界は最も黒人の恩恵を受けている業界の一つとされている)。本来の意図を理解せずに黒い四角を投稿すれば、「社会問題に興味のある自分」をPRするためだけに便乗しているという見方をされ、反感を買いやすい。発言をすることは大事だと思うので、投稿はしつつ、自分が行ったアクション(私は@colorofchangeという署名活動と、@15percentpledgeという、百貨店やスーパーなど大型量販店に、商品陳列(シェルフスペース)の15%を黒人が経営するビジネスのために確保をしてもらうよう促す団体への署名を行った)に関して説明し、他の人にも同じようにしてもらえるよう誘導できれば良いと思う。

「永世中立」というスタンスは無くなるのか

今後、個人も企業も、社会問題への中立立場は許されない時代になって行くかもしれない。そうなった時のために、日々知識を集めながら、流行に流されず自分の意見を確立し、自分が発信しているメッセージと、自分の起こしている行動に一貫性があるか、考えて過ごしたいと思う。

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