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言葉にならないけれど、確実に細胞に刻まれた夜のこと

私の人生には、実際の年齢がどうであれ、とんでもなく成熟した魂を持っているように見える方との出会いがいくつかある。その人たちは、タフで柔軟な精神と身体を持って、自分の道を突き進んでいるように見える。自分の身体や声や言葉やその他もろもろの表現方法を自由に使いこなして。そして私は、そんな人たちにたまらなく惹かれてしまうのだけれど(私の精神年齢が5歳児並みで、未熟な魂を持っているからなのでしょうか…?)、なぜか幸運なことに、その人たちの近くに行ってほんの少しの間の時間を共に過ごすことができる、そんな機会に恵まれることがある。

立原綾乃さんもそのひとりだ。綾乃さんがまだウェディングのプロデュースのお仕事をされていた頃(綾乃さんはそれを”前世だ”って笑ってた)、私は初めて綾乃さんに会った。まだ日本にはホテルウエディングしかなかった当時、綾乃さんの作る世界はとんでもなくセンスが良くて一度見たら忘れられないほどで、海外のとあるウェディングフォトグラファーに夢中だった私は綾乃さんの世界にあっという間に惹き込まれた。

ずっとウェブサイトをチェックしていたのだけれど、ある日突然こんなお知らせを見つけた。

『アトリエ専任フォトグラファー1名募集』

うわっとびっくりして、だけどすぐ冷静に連絡を取って、面談をしてもらうことになった。当時、綾乃さんの会社と契約してウェディングを撮影していたフォトグラファーは他にもいたけれど、週に一回アトリエに行って撮影を引き受けるフォトグラファーの募集をするのは初めての試みだと聞いた。ポートフォリオを見ていただき、ありがたいことにフォトグラファーとして契約していただけることになった。試用期間として、青山にあったアトリエでの撮影(何もかもが可愛すぎてどうにかなってしまいそう!)や、綾乃さんが空間装飾のディレクションをした店舗の撮影(好きなブランドのお洋服を販売しているお店でこれまた卒倒しそう!)をさせていただいた。赤坂でのウェディングの撮影(サーカスがテーマで、目眩く感じに発狂しちゃいそう!)もサブフォトグラファーとして入らせていただいたっけ。それが今から8-9年くらい前のこと。

だけど、そのすぐ後(本当に翌週とかそんな感じ)に、妊娠が発覚して、ひどいつわりに毎日悩まされることになった。四六時中吐き気と付き合わなくてはいけなくなってしまった私は、電車も乗れない状態だし、何にも食べられないしで、泣く泣く綾乃さんに謝罪の電話をすることにした。なんだか、もう、やりきれなかった。(女性の人生にはこういうことって、あるあるなのかもしれない。もしくは、戸建てを買った途端に海外赴任が決まる、とかもよく聞くけれど、こんな気分なんだろか。妊娠それ自体は、本当に喜ばしいことだったのだよ。)

そうして、その後は綾乃さんのアトリエに伺うことはなかったのだけれど、一度だけ軽井沢での撮影に呼んでいただいたこともあった。それからすぐに、綾乃さんはプロデュースのお仕事も辞められたのだと思う。

最後にお会いしてから何年が経ったのかもう思い出せない。でも、数年ぶりに綾乃さんに会う機会に恵まれた。綾乃さんのコンサートで。

空間に入ると、胸がつまる。どこもかしこも、私の涙腺ならぬ、キュン線を刺激するんだもん…!大好きすぎてしょうがない。なんなら涙腺までついでに刺激されて、目がうるうるしてくる。

この日のことは、言葉にできない。というより、したくないのだと思う。
私の全細胞のアンテナがビンビンに立ってた。そして、その全細胞に、感じたこと全てが刻まれた。だから、写真で感じてもらえたら嬉しい。(一枚一枚の写真を、マインドフルネスに、数分間ずつ見て欲しいくらいだわ!)

このポストカードの裏には、私は、たくさんの走り書きをした。
中でも、強い想いで書き留めた言葉は、これだった。

「私の衝動を止めるな。」

衝動、それは根源的でプリミティブな欲求。
私にとっては、シャッターを押すこと、そして時々、言葉にすること。たまには歌いたいとも感じるし、踊ることだって気持ちよさそうだけれど。

目が慣れていて貴月なかったけれど、キャンドルが灯るとずいぶん暗くなっていたことに気が付く。
突然舞い始めた女性に、居合わせた別の女性が感動を伝えているのかな


全ての演目が終了して、ここでもハグが。こんな仲間に入りたいって思っちゃったよ。
キャラメルがトロトロ甘くて、キャンドル灯しながら、隣に座った初めましての人とおしゃべりして食べる甘やかしっていいなあって。


私も、インスピレーションを与えられる人間になりたい。一緒にいるだけで心拍数が上がって、気分が高揚して、自分の可能性を信じたくなってしまうような。そんな人間になりたいなって、強く強く強く思った。そのために、一層私は、わたしの表現をしていこう、って。私には、それしかない。

車を停めた場所まで、火の灯ったキャンドルを片手に持って、ツルツルに凍った森の道を歩く。上を見上げれば満点の空。明かりのついた美術館の前に辿り着いて、周りが少し明るくなったのを確認した私は、キャンドルを吹き消した。強く息を吹きかけて。それはなんだか、私の決意を覚えておくための、儀式みたいだった。






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清水美由紀 / Miyuki Shimizu
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