【短編小説】勇者が湧き出る泉3
「なぜそんなに勇者になりたいのだ」
連れて戻ってくる間「勇者にはどうなったらなれるのか」とか
「早く勇者になりたいから稽古をつけてほしい」だの根掘り葉掘り私の横でスズメのように煩かったものだから泉に着くととりあえず畔に座らせ、私は人間の子の側に立ち、理由を尋ねてみることにした。
「おじい様が、勇者だった。誰よりも強くて、優しくて、かっこよかった。
おじい様のようになりたい。誰よりも強くて、優しい勇者に」
「では、その勇者のおじい様とやらに稽古をつけてもらえばいいだろう」
「おじい様はもういない。突然、盗賊に襲われた村を守ろうとして…死んじゃったんだ…」
ここを訪れる者は数知れず。
しかし、私が契約をし力を与えた人間は三人。
初めはこの世界の創世期、人間の始まりである者に。
その次は200年前この世界の大戦末期、とある国の王に。
最後は70年程前、銀色の髪をした青年に。
どうしてこの泉が「勇者が湧き出る泉」と人間界で噂されるようになったのかわからないが、噂に乗じて”勇者”を名乗りでる者もいるのだろう。
この者が言う”おじい様”もそれの類かもしれない。
「私は勇者ではない。この泉も勇者が湧き出る泉でもない。だから帰るんだ」
「じゃあ、さっきの魔法はなんだったの?おじい様も魔法が使えた。勇者じゃないならあなたは何者なの?」
「魔法が使えた?」
「うん。……そうだ。さっきの。大剣に炎が移る魔法。おじい様使ってた事がある…!そうだ。この剣を使って…私に見せてくれた事がある」
「……その…お前が言うおじい様の髪色は、銀色か」
「そうだよ」
そう答えると、はっと気づいたように私の顔を見上げ。
「…そう!ちょうどあなたの髪色と同じ!おじい様はもう少しあなたのより短くてツンツンしていたけど」
「…そうか。…時間の流れの違いに慣れないものだ…」
「?」
銀色の髪をした青年も、この者と同じような強い真っ直ぐな眼差しをしていたな。だからあの時の私も…。
泉がざわつき、水面に波紋が躍る。
「…素質があるか、そこからだ」
私を見上げる顔があからさまに高揚し、赤らむ。
「うん!!!!」
森に一陣の風が吹き込む。
私たちの足のまわりの黄色く色づいた葉を掬い舞い上げていった。