【短編小説】勇者が湧き出る泉2
人間の身体を生成したのはいいが…
人間というものはこんな窮屈な器によく入っていられるな。
どうやらこの人間の身体を動かすには訓練が必要なようだ。
「…ぁ…ぅ…ぅあ…」
声の出し方も練習しなければ。
しかし…あの人間の子。
村には帰らないと言っていたが…では今どこにいるのだ。
この森は人間を喰らう獣もいるというのに、迂闊な。
まあしかし、勇者になりたいというのであれば獣の一匹二匹は倒せなければただの笑い草だ。喰われるのであればそれはあの者の素質の問題であり、食物連鎖の一部に過ぎない。
決して私のせいでは…。
決して…。
「…」
右、左、右、左。
この連鎖で歩は進むのだな。
右…!左…!…み、右…!左!!
…よし。この連鎖を速めれば走れそうだ。
右!左!右!左!…
く。意外に難しいな。
足がもつれて倒れそうになる。
もう一回…!!
*
「おい!そこで何をしているのだ!!」
木を見上げると太陽が眩しい、人間はこうやって陽の光を浴びているのか。
「昨日の…!なによ!村には帰らないって言ってっていったでしょ!?」
人間の子は泉から少し離れたところの木の上で一晩を明かしたようだ。
しかし、ここらはあやつらの縄張りだ。
早く降ろさないと喰われるぞ。
「木から降りてこい!」
「嫌!だって降りたらあなた村に連れ戻すでしょ!?私、勇者になるまで村に帰らないから!」
「上を見ろ!!」
「…う、上…?」
ーーグァァアアア!!!
大きな羽に、大きな嘴。
その人間の子より遥かに大きい獣が頭上にまで迫っていた。
「!!!!!」
「飛び降りろ!」
人間の子が木から飛び降りた瞬間、鋭い閃光を放ち、
私は走り出そうとしたが足が躓きその場に倒れてしまった。
人間の身体というものは厄介だ。
目くらましの光から醒めた獣が再び襲ってくる。
「走れ!!」
やつの狙いは私だ。
この間に人間の子は逃げれば助かる。
「…!何をやっている逃げろ!」
「嫌だ!ここで逃げたら、勇者になれない…!」
倒れた私の目の前に立っている人間の子の手には剣が握られている。
しかし、人間の子には大きく重たすぎるのであろう剣先が地面についている。
「うあああああああああーーーーー!!!!!」
剣術なんて程遠いもので、振り回すだけで獣にかすりもしない。
威勢がいいのは良いが、ここで喰われても気分が悪い。
「いいか!私のいう事をよく聞け。言葉を繰り返せ」
「え!?」
私は人間の子の背中に手をあて力を注ぐ。
「剣先に集中しろ」
「…わかった…!」
「万物を司りし精霊よ。汝、我に力を与えん。我、炎を纏いて焼き尽くさん」
『…万物を司りし精霊よ。…汝、我に力を与えん…我、炎を纏いて焼き尽くさん』
「やつに放て!」
『やつに放て!!!!』
人間の子が持つ剣に炎が纏い、剣先に集中した炎は獣に目掛けて放たれ、命中とはいかなかったが、なんとか追払う事は出来たようだ。
人間の子は自分がやった事に驚いたのか、放心状態でその場に座り込んでいた。
「まあ。初めてにしては上出来だ。しかし最後の言葉は繰り返さくていい」
「…さっきのは…」
「魔法というものだ。この世の精霊が人間に力を貸し与え、一時的に行使できる。まあそもそも契約した者にしか与えないのだが、今回は特別だ」
「勇者は魔法が使えると聞いた事がある!ていうことは、あなたは勇者なの!?」
「…あ、いや…私は…」
「弟子にしてください!!!!」
「だから私は…」
「お願いです!!!あなたの弟子にしてください!!私、勇者になりたいんです!!!」
人間の子の圧に押されて、私は何も言葉がでなくなり、
とりあえず泉に戻る。とだけ言い、人間の子を泉に連れて戻った。
どうしたものか…。